内容説明
近未来。人類は異星文明ロジアと接触し、友好的な関係を築いていた。音声ではなくテレパシーを用いて会話する彼らロジ人との意思疎通のため、専門の通訳が養成されており、そのひとりであるリディアは、ロジア大使館の文化担当官フィッツの専属通訳を務めていた。ロジ語の通訳をつづけると酩酊に似た状態になってしまうという副作用があるのだが、あるときリディアが酩酊しているあいだに、フィッツが何者かに殺害されてしまう。重要容疑者にされたリディアは、真犯人を突きとめるべく動きはじめるが……全米図書館協会RUSA賞SF部門受賞作。/解説=渡邊利道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わたなべよしお
19
うーん、期待したほどではなかったかな。なかなか本題のストーリーが始まらない。確かに、最初の冗長のエピソードは後で回収されるのだけど、あまりうまくない、鮮やかさを感じなかった。主人公の人物造形もイマイチ。むしろ、殺される異星人の方がナチュラルで良いのだけど、極端な言い方をすると、この異星人たち、テレパシーを使うという以外に異星人っぽさがあまりない。まあ、これまで書いたほど悪くはないんだけど、全体にイマイチというしかないかな。2023/05/26
Mc6ρ助
16
『ほら、地球の権力者たちは、人びとの支持を失いかけたときや失敗を犯したとき、自分たちより高位の存在や外部の要因に、非難の矛先を向けさせようとするでしょう?・・別の国に責任をなすりつけるようになり、・・経済を悪者にすることもある。予算をカットしたり廃止したりするのは、経済をよくするためだというやつ(p281)』SF風味のコージーミステリだと思っていたら、これって異星人(のいろんなことを地球人がまったく知らないことを)前提としたその点では立派なSFミステリだったよ。全米図書館協会RUSA賞SF部門受賞だって。2024/01/12
もち
16
「自分が死んだことは、よく承知している」◆異星人の専属通訳として働くリディア。行動を共にしてきた上司・フィッツが殺害され、独自に捜査を進めることに。死してなお意識に語りかけてくるフィッツの声を頼りに、張り巡らされた陰謀を暴いていく――■死んだ異星人との変則バディ、という設定にまず驚く。謎を追う道筋は意外とシンプルだが、堅実さに満足していると、思わぬ転調に足を掬われた。分断されたままの世界で、歪に噛み合う厭世感が練り上げた、陰惨なプロットが翻る。 2023/06/28
本の蟲
14
最近のファーストコンタクトSFは、相互理解できない異質な対象が多いが、本作異星人は実に人間臭い。その点気になる人もいるだろうが、古典SFのようでわりと楽しめた。異星文明ロジアの地球文化担当官が、ある晩殺害されてしまう。同じ官舎で暮らす専属通訳のリディアだが、ロジ人の思念言語は酩酊に似た副作用があり、前夜の記憶がない。自身への疑いを晴らす為、リディアは真相を探り始めるが…。地球人が持つ異星人への不信感と陰謀論。現実でも今にも実装されそうなネットのTR(真実度)判定が鍵になっていて、軽いどんでん返しもあって〇2023/05/28
円盤人
8
「SF度が足りない」という意見が散見されるが、自分のような文系にはとても読みやすい作品。妙に人間臭いロジ人や、メガネ型端末やドローンが発達した社会は想像しやすく、たやすく世界に入っていける。ロジ人の上司・フィッツが殺害され、通訳者のリディアがその真相を追うのだが、彼女は上司の死をことさらに悲しんでいるようにも見えず、ワンナイトラブでの生々しさも欠如している。ただその感情の希薄さ、他人や社会との距離感がどこかふわふわしている様子も、「未来社会ってこんな感じかあ」などと、かえってリアルに感じられる。おすすめ。2023/12/02