内容説明
ナチスが1943年6月に「ユダヤ人一掃」を宣言した時点で、ドイツ国内に取り残されたユダヤ人はおよそ1万人。収容所送りを逃れて潜伏した彼らのうち、約半数の5000人が生きて終戦を迎えられたのはなぜか。反ナチ抵抗組織だけでなく、娼婦や農場主といった無名のドイツ市民による救援活動の驚くべき実態を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遊々亭おさる
21
ナチスが政権を掌握し、ユダヤ人一掃が苛烈に進行する全体主義のドイツ。密告が推奨され善良な人々が友を、家族をもナチスに売り飛ばす異様な社会のなかにありながら己れの信念に準じてユダヤ人を助け匿うドイツ人たちがいた。ある者は自分の出来る範囲で、またある者は己れの命を賭けて。新潮選書というお堅い本の感想としては間違っているが冒険小説を読んだ後のような面白さと満足感。気の良いアル中のブラウン博士も良い味を出してるし、潜伏者からレジスタンスになったノイマン姉弟の冒険も読みごたえあり。時には権力に否を突き付ける覚悟を。2023/11/19
サケ太
18
名著といって過言ではない。善意、契約、信仰。様々な要因で匿われるユダヤ人たち。彼らは、救けられ、助け、相互に戦時を乗り切ろうとする。『ユーデンフライ(ユダヤ人不在宣言)』や『ユダヤ人捕まえ屋』などのパワーワードあり。 取り上げられた多種多様な境遇の人々。音楽家であり、名前を変えながら活動をつづけた人物、コンラート・ラッテが興味深かった。匿う側にも理由があり、全面でないにしても、部分的に援助する人々もいる。「否(ナイン)」を突きつけた人間(ゆうしゃ)たち。その存在には、微かな希望を感じた。2024/07/07
ミノムシlove
16
互いに面識のない他人同士の鎖が、見ず知らずのユダヤ人の命を救う。それは肉体のみにとどまらない。「かような時代にも自分の身を省みず寄り添ってくれる数多の人がいる。」虐げられた人々の心にとって、この事実がどれほど心強いものであったかを想像する。“善きドイツ人”ではなく、人間として正しい行いをしたひとたち。果たして自分はこのように行動できるのだろうか。非常時にこそ本当の姿が出る。※複数の人が入れ替わり立ち替わり登場するのだが、非常に読みやすい。著者の筆力も相俟って満足な読書体験だった。良書。2023/11/22
HDK
11
2023年第27回司馬遼太郎賞受賞作。軍事政権化で全体主義の極みであるドイツにおいて、ユダヤ人に対する苛烈な迫害があり、多くのユダヤ人は国外に逃亡もしくは収容所に送られ殺戮された。そんな中、潜伏と逃亡を繰り返し生き延びたユダヤ人がいた。そうしたことが可能になった背景には彼らを助けるために尽力した『沈黙の勇者たち』がいた。「人を支えるのは人である」絶望の中でも人を信じることで希望を見出すことができる。名もなき人びとの生の記録は私たちに大切なことを残してくれています。2023/12/19
てっちゃん
7
ナチス政権下でユダヤ人を救うドイツ市民のネットワークが存在していたことに、感銘を受けた。大変示唆に富む良著だと思う。2024/04/09