内容説明
さあさあ、寄ってらっしゃい、
見てらっしゃい!
暑い日、怪談を聴いて背中がゾクッとして涼しくなる?
そんなわけはない。
開けた戸や窓の先には闇が広がった。夏は、人の住む明るい部屋と、
幽霊や妖怪の棲む闇とが交じり合う。
もちろん冬の幽霊や妖怪もいる。家には囲炉裏があって暖かだが、
外は寒く北風が吹き雪も降っている。秋の夜長の幽霊もいれば、
梅雨の幽霊もしっくりくる。
桜の下に幽霊は佇む。狂ったように咲く桜の木の根本には
死体が埋められているという話もある。
季節なんてどうでもいい。
いつの季節にも幽霊の出るロケーションはある。
怪談は「怪しい」「談」と書く。
「談」すなわち「話」だ。誰かが作り、文章にし、語って聞かせたりした。
すべてが創作ではない。
昔から語り継がれたモノや、そのときに起こった話もある。
話には説得力を持たせるための脚色が必要だ。
夏は他の季節よりいくらか演出効果があるのかもしれない。
そんな夏の夜、夕涼みの客の心を掴んだのは、爆笑落語でもなく、
しみじみした人情噺でもなく、どこか妖しく気味の悪い「怪談」だった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
にしの
3
古今東西、怪談をテーマに論じようという意欲を感じます。まあ、学術的なものでなく口語調で書かれているので新書のように軽く読めます。落語を専門とした書き手なので、牡丹灯籠などの江戸時代に語られた怪談が中心。そのほか、怪談とホラーの違いなど。人生であなたを震え上がらせた怪談とはなんだったのか、そういう振り返りの一冊。2020/08/10
qoop
3
著者の専門である演芸に根差した狭義の怪談論。ただ、演芸的な怪談の周辺領域/近接分野に対する理解と関心が薄いのか、比較考量がかなり雑で、ぼんやりした像しか浮かんでこない。怪談の範囲を広く取って広義の怪談から狭義の怪談を切り分ける方向で論を進めるか、あるいは素直に古典芸能にみる怪談のみ論じれば良かったのではないか。同社から出ている著者の「浪曲論」「大人の落語評論」が面白かっただけに残念。2015/07/21
乱読家 護る会支持!
2
僕が子供の頃、母親に「なんで、夏に怪談ものが増えるの?」と聞いたら「ブルブル震えて暑く無くなるから」と返され、納得しなかった記憶があります。 本書が冒頭に答えてくれているのは、「夏は日が長くなって、皆が夜に行動出来たため、芝居小屋など余興が流行ったこと」「昔は家を開放して、蚊帳の中で寝た。家の中から見える外の暗闇に昔の人は不気味なものを感じることが多かった」。 夜はエアコンをかけて窓を閉めて寝て、外は街灯で明るく、そして科学が死後の世界を否定している現代社会。そりゃ妖怪も幽霊も出てはこれないですよね(笑)2023/07/08
カーメンホワット
2
軽いスナック菓子つまんだような感じ。ちょっとなら読める時間用みたいな。たとえばトイレでふんばる前のタメの数分間2015/08/18
田中峰和
1
演芸作家で、落語に造詣の深い著者は落語や講談をもとに怪談を論じる。怪談を聞く人は、常に責められる側に感情移入するそうだ。四谷怪談であれば、伊右衛門に毒を盛られ責められるお岩に同情するが、化けたお岩が追い詰めると伊右衛門に感情移入するのだ。これが怪談を聞きたがる人、怖がりたがる人の特性だという。西洋の怪談との比較では、ホーンテッドマンションを例に説明。日本では人に憑く幽霊が基本だが、西洋では家や屋敷にとり憑く場合が多い。輪廻を信じる仏教徒にとって、恨みで成仏できない恐怖が日本の怪談の基本なのかもしれない。2015/09/15