内容説明
1993年9月2日未明、11歳のせれなは恋に落ちた。テレビ番組で偶然見かけた伝説のロックスター・リアンに。母に捨てられ、父から性虐待を受けるせれなにとって、その愛しい人は唯一の生きる理由となった。彼女は苦しみのたび、リアンとの妄想世界にトランスする。甘美な夢と凄惨な現実。その境界線は次第に曖昧になっていき――。過酷な現実を生きる一人の少女による自らの救済の物語。圧巻のデビュー作にして、第44回すばる文学賞受賞作。川上未映子氏絶賛!!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
桜もち 太郎
15
母親は男を作り家を出て、父親は二度の自殺未遂。そんな父親は14歳の娘せれなに性的虐待を加える。せれなは現実逃避に走り、過去のイギリスのロックスターであるリアンと付き合うという妄想に耽る。14歳の少女には現実に何が起きているのか受け止めることができなかったのだろう。物語の展開としてリアンとせれなの人生を重ねるということに、何か意味があるのだろうか。確かに父親からの虐待は許されるものではないけれど、読んでいてくどさを感じた。「コンジュジ」は「助け合って生きていく人」との意味があるらしい。孤独な物語だった。2025/01/06
こばゆみ
13
父親から性虐待を受けている少女が、偶然テレビで見かけたロックスター・リアンに心を奪われ、リアンと共に過ごすことを夢想するお話。夢想というか現実逃避というか。出てくる男性がクズばかりなので気持ちの良い話ではないけれど、最後の棺桶のくだりがとても良かった。原裕菜さんの表紙のイラストも素敵。2023/03/03
izuru
6
実の父親から性虐待を受けている主人公が、既に故人となっている英ロックスターをイマジナリーボーイフレンドとして心の中に棲まわせる。(余りにも壮絶な現実から自分を遮断するために、記憶を無くしてしまったり人格を変えてしまったりということは性被害の現場ではよく聞かれる。)「コンジュジ」とは「配偶者」という意味であるが、その言葉を身を持って表す主人公のラストシーンが圧巻だった。2023/05/24
ことり
5
トラウマとはこう言うことなのか。加害は終わったようにみえても、被害者はずっと苦しめられる。被害は終わらない。救いを求めて妄想の世界を作り、終わりの見えない虐待にひたすら耐えている。こんなことのない世界にしないといけない。2024/12/10
ひでお
5
父親からの性虐待を受け、心のよりどころとしてロックミュージシャンとの空想の関係に生きる女性のお話。虐待を受ける部分については心が苦しくなるときもありましたが、空想の世界と現実との境目があいまいになるにつれ、そうやって、心の安寧を得られるのであればそれもまた心の癒しなのかとも思いました。そしてそんな彼女を理解できたのは、現実の人間にはいなかったことが、それが真実なのだろうなとも思えました。2024/08/08