内容説明
絵本などで親しまれながらも恐怖の対象でもある「鬼」。「鬼」は古代では畏怖の対象だったが、時が経つにつれ、都合の悪いものを表すような存在となっていった。その歴史をひもとけば、日本人の心の有様もみえてくる。
目次
はじめに/第一章 鬼の登場──古代/1 大陸からの到来/2 恐れられた忌夜行日/3 病気をもたらす鬼/第二章 鬼ヶ島のはじまり──中世/1 鬼の対処法/2 鬼の棲み家/3 地図に描かれた鬼ヶ島/第三章 退治される鬼──中世/1 豆まきのはじまり/2 女性と鬼/3 鬼退治の物語/第四章 現実と想像の狭間で──近世・近代/1 妖怪化する鬼/2 大衆新聞の娯楽/3 侵略・差別・迫害/おわりに/あとがき/主要参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
62
『鬼の橋』からの流れで読んだ。日本における鬼の歴史を概観する。興味深いトピックがたくさん。例えば大陸の鬼と日本の鬼の違い、疫神とモノノケの違い(前者は陰陽師が祭・祓で退散させ、後者は僧が加持修法で調伏するらしい)、女性や畸形を鬼とする偏見、戦時中の鬼畜米英から『鬼滅の刃』のような現代の作品まで。著者は『鬼滅』が鬼のイメージを変えたと指摘するが、『鬼の橋』は鬼の苦悩を、謡曲は一般に鬼と化した人間の煩悩の浄化を描いており、鬼は昔から現代に至るまで日本文学の重要な創造の源泉と言えると思う。2023/06/07
venturingbeyond
37
あとがきにある通り、文献史学の手法に基き日本における「鬼」の表象を扱った通史。プリマー新書の読者層を想定した平易な叙述で、インドや中国に淵源を有する「鬼」の概念の移入と日本における受容と変容・改変の実相がコンパクトにまとめられている。「鬼」にカテゴライズされる異形の存在や外部世界からの流入者に対する視線の中に、本邦の歴史に通底する障害に対する忌避意識やミソジニー、ゼノフォビアを指摘する点など、「鬼」の表象の変遷を追いながら、現代にまで継続する問題を明らかにしている。さらっと読める良書。2023/05/22
ひよピパパ
25
日本の「鬼」について通史的に捉えた書。古代から現代まで「鬼」概念がどのように変遷していったかを豊富な資料とともに解き明かしている。文体も平易で読みやすい。「節分」の風習は宮中で大晦日に行われていた「追儺(ついな)」に起源があることに納得。勉強になった。2023/09/11
LUNE MER
20
アカデミズムの立場から見た「鬼」という概念についてまとめられた一冊で、かなり満足。平安時代における病と鬼の概念の結びつきのところで、病気の原因がモノノケか神かによって対処法が厳格に異なったり、当時ももちろん医師は存在しており僧や陰陽師と協力して病気治療にあたっていたことなど、この辺りの知識が充足出来た点はかなり大きい。お陰で、源氏物語の様々なシーンを思い返しながらようやく意味がきちんと分かったことも多い。2023/07/06
みなみ
18
日本における鬼の歴史。というか何を鬼とみなしてきたのかを追いかける一冊。障害児を「鬼子」としたり、異国人が鬼扱いされたり、女性が嫉妬や負の感情から鬼になったり。鬼にされる対象から社会の差別意識が浮かび上がってくる。なるほど「鬼畜米英」とは急に浮かび上がってきた言葉ではなく、身なりの違う外国人を鬼呼ばわりしてきた歴史の積み重ねなのだ。ちくまプリマー新書という読みやすいレーベルでもあり、広い世代に読まれてほしい一冊。2023/06/09