内容説明
「このひとがいなかったら、日本にフェミニストカウンセリングはなかった。
最後の著書になるかもしれないと、明かされなかった秘密を今だから語り残す。」
――上野千鶴子(社会学者)
母、妻としての役割しか求められない女性たちの心理的虚しさは、贅沢な悩みとして取りあってもらえず、夫からの暴力は夫婦間の問題として軽く扱われていた。セクハラという言葉はなく、痴漢は女性に隙があったと責任を転嫁された。1980年とはそんな時代だ。
フェミニストカウンセリングは、「苦しいのは、あなたが悪いのではない」と女性たちへ「語り」を促し、社会の変化を後押ししてきた。
「ノー」を言う、自己主張をする、「自分」を伝えるためにもがいた、連帯の土台。
女性たちが語り、聞いてもらえるカウンセリング・ルームをはじめて作った創始者がエンパワーメントの歴史をひもとく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
52
【個を問うフェミニズム】とよぽんさんに教えられ――。フェミニズムの視点から女性のエンパワーメントを援助するフェミニストカウンセリングの理論と実践を紹介する書。上野千鶴子との対談。資料の「『フェミニストカウンセリングのアセスメントシート』作成の試み」「女性センターにおける相談業務ガイドライン(試案)」。著者は、<生き方に悩んだり、戸惑ったり、行く道を探している若い女性には多様な生き方があるから、それぞれあなたの信じた道をお行きなさい、と言ってあげたい。間違ったら引き返してくればいい。人生は長いのです>と。⇒2024/07/05
とよぽん
47
再読。著者の河野貴代美さんと上野千鶴子さんとの対談は、緊張感がありながら互いにリスペクトを抱く者同士のやり取りが建設的な内容だったと思う。河野さんはこれまでのフェミニストカウンセリングを振り返るスタンスだったのに対して、上野さんはフェミニストカウンセリングの歩みと日本社会への関わりを取り上げて、そのちょと内向きの体質を惜しいとして、これからの改革を期待していらっしゃった。フェミニストのパイオニアが、臨床と社会学の異なる立ち位置で対談した貴重な記録を読んだと、私は受け取った。2023/11/22
とよぽん
47
河野貴代美さんの研究と実践の集大成、と言ってよい著書だと思う。ご自身も、これだけの内容をまとめることは、もう最後になるだろうと書いていらっしゃる。だから、フェミニストと社会的背景、歴史などについて心して読まなければならないと思った。カウンセリングの専門的なことはよく分からないが、女性の生きづらさや苦悩に寄り添うこと、エンパワーメントすることは今後も大切だと思う。要再読。2023/10/19
てくてく
6
フェミニストカウンセリングを日本に導入した河野貴代美さんの自伝風な一冊。概説書みたいなものを志向した本ではないため読みづらいところはあったが、河野さんの考えてきたことを知る上では読むべき一冊だと思った。上野千鶴子氏との対談で、河野さんが心理学というよりもソーシャルワークからこの問題に関わったことを語っていて、あ、だからそうなのだと思うところがあった。2023/11/05
ひだり
3
フェミニストカウンセリング、女性をジェンダーから解放してエンパワーメントするカウンセリングだと捉えましたが、それを日本で展開した河野貴代美さんの著書。少し読みにくかった。私も興味を持ち学会のHPを見たけど、盛り下がってる?最後の上野千鶴子さんとの対談で上野さんが「アカデミックな論を打ち立てて後継者を育成しようと思わなかったのか。資格化は賛成したが失敗している、もっと食える仕事にするための裾野を広げなければ」と厳しく指摘していたが、その点は同じく残念に思う。2023/08/23