内容説明
魂は身体の細部にこそ宿る
隠された美を掬い取り、やわらかに照らし出す。極上の随筆16篇。
イチローの肩、羽生善治の震える中指、ゴリラの背中、高橋大輔の魅惑的な首、ハダカデバネズミのたっぷりとした皮膚のたるみ、貴ノ花のふくらはぎ、赤ん坊の握りこぶし――身体は秘密に満ちている。
「文藝春秋」大好評連載を書籍化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
388
初出は「文藝春秋」に連載された連作エッセイ。多くは一芸に秀でた誰か(もっともカタツムリなどというのもあるが)の身体の特定の部位に注目してしたためられた16篇。観察眼の的確さと細密さ、さらにはそこから連想を広げてゆく想像力の豊かさが本書を構成している。まずは、身体性への着目というのがいい。そして、それを語る文章力が実に秀逸、練達の域に達する。ことに最後の、あるいはその寸前の一文の表現が見事。例えば「一人の外野手の肩を通し、人々は記憶に刻まれた太古の肉体の美と再会する」ーこんな表現が全ページを覆う。2023/10/08
starbro
257
小川 洋子は、新作中心に読んでいる作家です。本書は、人間や生物の身体のパーツを愛でるエッセイ、フェティッシュ考現学、著者がイチローの強肩、レーザービームについて語るとは思いませんでした。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916699 【読メスポつ部】2023/04/02
旅するランナー
255
小説家の文章の美を感じます。対象物を選び取る視点と、その美しさに対する文学的表現が素晴らしい。イチローのレーザービームを生み出す肩、羽生善治の震える中指、高橋大輔の音を奏でる首、初代貴乃花のうっちゃるふくらはぎ、桐竹勘十郎の文楽人形を操る腕などから、ゴリラ·ハダカデバネズミ·シロナガスクジラ等生き物まで。それぞれの動きや生き様の深さに感動すら覚えます。2023/08/05
いつでも母さん
182
その一点に寄せる小川洋子さんの随筆16篇。ピッタリな写真も素敵です。静かだがしっかりした記憶が凄い。帯に『やわらかに照らし出す』とあるがまさしくそんな感じの随筆。小川さんの世界があった。2023/05/12
KAZOO
172
どこかで読んだことがある小川さんの文章と見たことのある写真が掲載されていたのですが、すっかり忘れてしまっていました。最近の月刊文藝春秋に連載されていたエッセイでした。年は取りたくないもので物忘れが進んでいるようです。「からだの美」ということでの様々な視点から人間ばかりでなく動物(ハダカデバネズミやシロナガスクジラなど)などについても観察されています。印象に残ったのは、卓球の石川佳純選手の目力や中国のハードル選手の足の裏についての話です。2024/06/02