内容説明
明治十年の創立から東京大学は常に学問の中心としてあり続けた。大震災、戦争、大学紛争、国際化――その歩みはまさに日本の近現代史と重なり合う。時代の荒波の中で、歴代の総長たちは何を語ってきたのか。名式辞をめぐる伝説、ツッコミどころ満載の失言、時を超えて紡がれる「言葉」をひとつずつ紐解く。南原繁から矢内原忠雄、?實重?まで、知の巨人たちが贈る、未来を生きる若者たちへの祝福と教訓!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
105
石井先生には大河内総長の「肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ」を題材にした見事な式辞があるが、その石井先生が、初代からの総長の式辞を分析した素晴らしい一冊。国家主義的な世相を反映した戦前戦中や、実用的な言辞の近年の式辞と比較して、南原繁総長と矢内原忠雄総長の言葉が傑出している。普遍的教養を訴えた南原総長、学問の自由と大学の自治を唱えた矢内原総長。私は、終戦直後の東大を二人のキリスト者が率いた奇跡に感謝したい。更に、二十世紀最後の蓮實重彦総長が「おめでとう」の代わりに新入生に贈った厳しい言葉も感動である。2025/06/06
ホシ
25
明治~平成の歴代東大総長による式辞の内、著者が興味深く思うものを選出し、解説と見解を加えます。全体的には本人の信条はともかく一流の学者と言えども時代の趨勢には抗えず、時流を支配する思想に染まってしまうこと、また戦中と戦後の式辞では見事なまでに国家観が転倒しており、当時の世相を想像することの難しさを感じました。戦中の式辞に見られる国家礼讃の文言の異様さや、新入生に対して高慢になることを戒めつつ当の式辞に高慢さが透けて見える滑稽さなど種々の式辞があり、東大と時代の変様が窺える良書です。読んで良かった!2024/02/17
おいしゃん
17
戦前から現代までの学長の式辞を題材に世相を追う。いきなり戦前だとギャップが大きいので、敢えて章を遡りながら読了。2024/09/21
まさこ
17
各時代の総長の式辞を解説しています。私は入学式や卒業式のスピーチ、結構好きです。若者への訓示、呼びかけ、冷や水、又はエールか。蓮見重彦のところが面白い。新入生はガツンとやられましたね、分からないものに出会って。この本では、日本のアカデミックの頂点にある人の考えも、時代の空気に翻弄されていること、それが避けられないということがよく伝わります。最後に安藤忠雄、ロバートキャンベル、上野千鶴子という異色の来賓スピーチも入れています。独創について、様々考えます。ノブレス・オブリージュ、これはいつの時代も自覚を。2023/12/19
ドラマチックガス
14
少し期待と違った。式辞メインかと思っていたら、式辞を題材にしたエッセーだった。きちんと立ち読みしてから買うんだった。肝心の式辞も「これは!」「さすが!」と唸るものはあまりなく。蓮實重彦さんの47分に及ぶ式辞は少し面白い。最後にまとめられた「来賓祝辞」が素晴らしい。安藤忠雄さんが入学式に参加する保護者に対し「邪魔だから出て行け」(意訳)と最初に言っちゃうエピソードもロバート・キャンベルさんの重大な問いかけも。そして圧巻は上野千鶴子さん。東大に限らずすべてのエリート(と思っている人)が知るべき言葉。2023/03/31