内容説明
オランダの酪農家一家に育った10歳のヤスは、クリスマスの晩餐用に殺されるかもしれない自分のウサギの代わりに兄が死にますようにと神に祈る。その祈りが現実となった時、不穏な空想の闇がヤスを襲う。史上最年少でのブッカー国際賞受賞作。解説/鴻巣友季子
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
61
キリスト教の教えに根差した慎ましい生活を送るヤス一家。クリスマスに自分の飼っている兎が潰されるかもしれないと思ったヤスは神様に願った。「兎の代わりに兄マティアスを連れて行ってください」と。そこから不運とやり場のない罪悪感が彼女を追い詰めていく。死児や自己に意識を向ける余り、ネグレクトする両親のどうしようもなさが忌々しいが、現実的だ。そして聡明なハンナは家を出る必要があると悟るが、子供は簡単に逃げられないのも事実で。また、信仰が何も救ってくれない閉塞とその中で募る家庭の不和と爆発性は映画『ウィッチ』のよう。2023/07/29
ヘラジカ
53
あどけない少女の視線を通して、歪んだグロテスクな世界をこれでもかというくらいに生々しく描いている。幼い子供特有のコミカルな表現も、可笑しさよりは不条理な現実の醜怪さをより一層際立たせる効果を生んでいた。時折神経に触れるような文章があり、とても小説デビュー作とは思えない物凄まじい筆力である。「ここではない別の世界」の暗喩が頻出し、そのなかに有名ライフ・シミュレーションゲームのザ・シムズがあるのも興味深い。仮想世界で生き生きしているキャラクターとの乖離を想像すると不気味だ。得難い読書体験だった。2023/02/24
かんやん
30
クリスマスに可愛がっているウサギが料理されるよりは、兄を召して下さいと神に祈った酪農家の女の子。そして、実際に兄はアイススケートの事故で亡くなる……。子どもというのは条理を欠いた空想や発想をしたりするものだが、それを表現する比喩やしばしば汚い描写が活き活きとしており、瑞々しい言語センスに魅了される。しかし、この長さになると、それだけではさすがに辛いのではないか。いや、文学の目利きが評価して文学賞を受賞しているのだから、そんなことはないのだろう。ただ、かわいそうな、あどけない、女の子の独白なのである。2024/08/14
星落秋風五丈原
29
「兎の代わりに兄を連れていって」他愛のない願い事が現実になったことから不幸になる少女。表紙絵の目の表情は不安というより恐怖。2023/03/23
のりまき
23
苦しい読書でした。読み進めるのが辛かった。夕闇からどんどん暗くなっていくような。2023/05/05