内容説明
自分の住むところには自分で表札を出すにかぎる――。銀行の事務員として働き、生家の家計を支えながら続けた詩作。五十歳のとき手に入れた川辺の1DKとひとりの時間。「表札」「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」などの作品で知られる詩人の凜とした生き方が浮かび上がる、文庫オリジナルエッセイ集。〈解説〉梯久美子
【目次】
Ⅰ はたらく
宿借り/けちん坊/朝のあかり/雨と言葉/目下工事中/よい顔と幸福/日記/晴着/事務服/事務員として働きつづけて/おそば/領分のない人たち/食扶持のこと/着る人・つくる人/巣立った日の装い/試験管に入れて/夜の海/こしかた・ゆくすえ
Ⅱ ひとりで暮らす
呑川のほとり/シジミ/春の日に/電車の音/器量/花嫁/通じない/女の手仕事/つき合いの芽/彼岸/コイン・ランドリー/ぜいたくの重み/水はもどらないから/愛車/庭/籠の鳥/貼紙/山姥/梅が咲きました/雪谷/私のテレビ利用法/かたち
Ⅲ 詩を書く/立場のある詩/花よ、空を突け/持続と詩/生活の中の詩/仕事/お酒かかえて/福田正夫/銀行員の詩集/詩を書くことと、生きること
Ⅳ 齢を重ねる
終着駅/四月の合計/二月のおみくじ/椅子/私はなぜ結婚しないか/せつなさ/インスタントラーメン/火を止めるまで/しつけ糸/鳥/おばあさん/
空港で/八月/港区で/花の店/隣人/風景/思い出が着ている/悲しみと同量の喜び/ウリコの目 ムツの目/乙女たち/夜の太鼓
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
129
石垣りんさんのエッセイを、はたらく/一人で暮らす/詩を書く/齢を重ねるの4つの項目に分類した文庫オリジナルの編集。14歳から定年まで銀行の事務員として働き、生涯独身、働きながら詩を書き、50歳で購入した1DKのマンションを終の棲家とした詩人の人生を辿ることができる。代表作の「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」「表札」が引用されているのも粋な選定である。石垣さんの詩を読むと、戦争や労働や女性問題に対して闘う強い意思を感じるが、このエッセイ集では、そんな強さとともに、石垣さんの隣人に対する優しさに心打たれる。2023/07/17
あつひめ
41
石垣りんさん初読み。私が生まれる前からのエッセイや詩がずらり。時代は違っても石垣さんの思いは現代女性に共感できることがたくさん含まれていると思う。家庭でのご苦労から職場での男尊女卑等の苦労。その感情を言葉で表現している。40年前私が初めて職場の仕事始めに参加した時も女性は着物、男性はスーツ。仕事は新年のあいさつだけで半ドンだったことを思い出す。でも、あの頃はそんな時代だった。石垣さんのエッセイにはそんな時代だったころのことがとても素直に正直にわかりやすく書かれている。今でも通用する辛口な感情もいいと思う。2024/09/25
ケイティ
34
よかったなぁ…と何度でもしみじみ呟きたくなる一冊。この時代で女性で独身、一人暮らしで銀行勤めで詩人となると、かなりマイノリティ扱いされたであろう。今の朝ドラもですが、当の本人は常に頑なで強い思想や主張があるわけでなく、流されない視点や気づきがあり、その疑問を見過ごせないという結果的な選択に思える。時に持て余しながらも、誠実さと信念、好奇心そして何より自分であることを捨てない。日々の営みから詩や働くことについてなど、媚びない飄々とした素直な文章がとても心地よかった。2024/05/22
紫羊
22
私が就職した頃はまだ、女性が働くのは結婚するまでの腰掛けなどという風潮が残っていた。お給料、昇進、定年等々、待遇にも随分と差があった。著者が就職したのは昭和9年で、その時彼女は14歳だった。戦争の苦労もあり、家族という重荷もあったからか、綴られた言葉の奥から著者の苦い思いが伝わってくる。2024/02/23
ykshzk(虎猫図案房)
22
「働いて三十年余りになるのですが(中略)してきたのは仕事ではなくて、がまんだった。」定年まで銀行に勤めながら詩を書いてきた著者。「がまんだった」お勤めは、彼女と家族の暮らしを支えるものであり、生み出すことばのもとになるものでもあり。働くということは、おおきなものに心ごと流されて、見えるものも見えなくしてしまうこともあると思う。そこで決して流されなかった彼女の心と目はすごいと思う。「ただ生きて、働いて、物を少し書きました。それっきりです。」とのことだが、十分ではないか。数十年のがまんは結晶して輝く言葉達に。2023/05/09
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