内容説明
「彼の一生は失敗の一生也。彼の歴史は蹉跌の歴史也。彼の一代は薄幸の一代也。然れども彼の生涯は男らしき生涯也。」――芥川龍之介
平安末期。十二歳の少年・駒王丸は、信濃国木曽の武士・中原兼遠の養子として、自然の中でのびのびと育つ。兼遠の息子たちとも実の兄弟のように仲良く過ごすが、彼は父と母の名も自分が何者なのかも、いまだ知らずにいた。
ある日、駒王丸はささいなきっかけから、同じく信濃の武士の子・根井六郎と喧嘩になる。だが、同等の家格であるにもかかわらず、六郎と根井家当主が後日謝罪に訪れる。二人は畏れ多そうに深々と頭を下げて言う。
「駒王丸殿はいずれ、信濃を束ねる御大将となられる御方。我ら信濃武士は、ゆくゆくは駒王丸殿の旗の下に集わねばならぬ」
初めて知る実父の存在、自らの壮絶な生い立ち。駒王丸、のちの木曽義仲の波乱の生涯が始まろうとしていた。
類い希なる戦の腕で平家を追い落とし、男女貴賤分け隔てない登用で、頼朝・義経より早く時代を切り拓いた武士。
彼が幕府を開いていれば、殺戮の歴史はなかったかもしれない。
日本史上最も熱き敗者、「朝日将軍」木曽義仲の鮮烈なる三十一年。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
281
この時代は何気にタレントが揃っていて、それぞれの背景を知ってから読むと、楽しさが倍増。義仲を快男児に描き、ある程度は成功している。ただ、京に入ってからは、どう描写しても精彩を欠くというか、それまでが清廉潔白な人物像であればあるほど、半鬱病になったように見えてしまう。にも関わらず、巴や葵が脇に配置されたことによる目新しさや、最近読んだばかりの『夜叉の都』からの前知識があったことで、一気読みの勢いでのめり込めた。江間の姓のままで、さらっと義時が出て来たのも、このタイミングでなければ気づかなかったかも。2023/03/13
ちょろこ
136
惚れた、痺れた一冊。木曾義仲。また一人、猛き武将に惚れた。彼の生きざま、矜持に痺れた。そしてラストは涙しかなかった。一人の武将にスポットをあてたことで今まで見ていた景色が一変、熱を帯びた全く別の景色を見せられることほど感動はない。世の全ての人が人として等しく生きられる世を目指した、ただそれだけなのになぜにこうも理不尽な矢が降るのか…。巴御前との出会いから、共に道標のような絆はもちろん、悔しくとも美しさを感じるラストに涙が止まらない。たらればが拭えないけれど、ここまで輝きを放った木曾義仲にはラブしかない。2023/06/11
のぶ
98
木曽義仲の生涯を描いた長編小説。大河ドラマに出ていたという話を聞くが、自分は観ていないので真偽は分からない。本書で描かれているのは、幼名、駒王丸は、信濃国の武士・中原兼遠の養子として登場して、その後源義仲として世界に出ていく事になる。時代はまだ源氏と平家の勢力が拮抗していて、いたるところで戦が繰り広げられていたという事が印象に残った。そんな中で義仲の勢いが良かったのは僅か4年弱。彼には平家を倒すとか、権力を手にするとかそういうことはどうでも良かった。あまり知る事のなかった武将の姿が知れて良かった。2023/03/31
nico🐬波待ち中
91
木曾義仲。私欲や野心のない、常に"正しい"漢。人としては申し分ないのだけれど、もう少し要領良く立ち回ることができたなら…けれどこの要領の悪さが、義仲の良さなのだろう。だから民や配下の者たちにこんなにも愛されていたのだろう。巴御前に葵御前。この戦乱の世に女性を戦に登用する義仲の手腕にはとても驚かされた。配下の者たちそれぞれの性質を見抜き、適材適所に配置する。まさに理想的なトップ。あれから何百年経とうと、人の心を今尚揺さぶる漢の中の漢。戦の上では敗者であったけれど、歴史上の漢としては勝者であったと思う。2023/05/18
ゆみねこ
84
何とまっすぐで良い漢だろう!木曽の山深い地から天下に躍り出てわずか4年で散った朝日将軍・木曽義仲。平家の世を終わらせるにはこの人なくしてあり得なかった。もし、頼朝ではなく義仲が幕府を開いていたら?それにしても頼朝や法皇、公家の陰湿さよ…。分厚さに怯んだけど、読み始めるとその世界にどっぷりと浸れる。読んで良かった1冊。2023/06/25