内容説明
富と人口が集中し、世界最大規模を誇る都市、東京。だがこの都市は、少なくとも三度、占領されてきた。1590年の家康、1868年の薩長連合軍、1945年の米軍によってである。凹凸をなすこの都市の地形と結びつきながら、過去の「敗者たち」の記憶は、歴史的な地層をなしてきた。縄文の古代から現代までを視野に入れ、地球史的視座と家族史的視座とを往還しながら、江戸=東京に伏在する「敗者たち」の記憶の水脈を探り当て、「勝者」であり続けようとする令和の東京とは異なる可能性を探究した、比類なき「江戸=東京」論!
目次
序章 東京とは何か──勝者と敗者のあいだ/パンデミックのなかの東京離れ?/「勝者」としての東京/東京集中の臨界はどこにあるのか/少なくとも三度占領された都市・東京/歴史の遠近法を導入する/第I部 多島海としての江戸──遠景/第1章 クレオール的在地秩序/縄文の多島海と渡来人文明/関東平野を遡上する渡来人たち/クレオール化する渡来人たち/秩父平氏が支配した利根川流域/武家政権により周縁化される在地勢力/第2章 死者の江戸、そして荘厳化する外縁/巨大都市・江戸のインフラ基盤/「戦乱の時代」の終わりと死の管理/江戸における寺院のトポグラフィー/上野・浅草の寺町化と東叡山寛永寺の荘厳化/海人たちの時代の終わり/第II部 薩長の占領と敗者たち──中景/第3章 彰義隊の怨念とメモリー・ランドスケープ/三度の占領で反復されたパターン/戊辰戦争における「賊軍」の近代/彰義隊士たちの死骸と記憶/メモリー・ランドスケープの変容/戦場から博覧会場へ──上野の近代/第4章 博徒と流民──周縁で蠢く敗者たち/博徒次郎長と咸臨丸兵士の遺体/天田愚庵による「清水次郎長」の創造/天変地異の中で増殖する無宿人/体制の緩みと博徒の水平ネットワーク/幕末江戸における博徒と遊女/第5章 占領軍と貧民窟の不穏──流民の近代をめぐる眼差し/1 東京と都市下層/江戸占領軍が抱えていたリスク/戸籍の発明と弾左衛門支配の終焉/変質する都市下層コミュニティ/2 貧民を語る眼差し/貧民窟を探訪する敗者のジャーナリズム/変装する桜田文吾と貧民窟の人々/エスノグラフィーの視線と社会調査の視線/敗者の眼差しとサバルタンの語り/第6章 女工たちは語ることができるか/1 周縁化される紡績女工/サバルタンとしての女工たち/『日本之下層社会』における女工の語り/紡績工場と士族救済/紡績の大規模工業化と女工の周縁化/2 逃走と争議、そして馴致/集団逃走する女工たち/女工のセクシュアリティをめぐる語り/「逃走」から「争議」へ/「争議」から「バレーボール」へ/3 女工たちは語る/『女工哀史』を語ったのは誰か?/女工たちは語っていた/第III部 最後の占領とファミリーヒストリー──近景/第7章 ニューヨーク、ソウル、東京・銀座──母の軌跡/三度目の占領と歴史の遠近法/母、ニューヨークで生まれる/祖父母の離婚とソウルでの女学校時代/ソウル出奔と日本本土への引き揚げ/焼け野原の東京と木挽町の「旅館」/ふたつの文化の狭間で/第8章 学生ヤクザと戦後闇市──安藤昇と戦後東京/1 東大久保の不良児/チエちゃんのところはいいわよね/「死を背景にした暴力」としての安藤昇/東大久保という場所──不良から愚連隊へ/2 愚連隊たちの東京──ヤクザというエートス/闇市東京と極道のアメリカニズム/ヤクザというエートス──丸山眞男の卓見/万年東一と安藤昇──愚連隊を語る方法1/花形敬と安藤昇──愚連隊を語る方法2/清水次郎長からの反復と転位/第9章 「造花」の女学校と水中花の謎──山田興松とアメリカ進出/曾祖父・山田興松とは誰か?/女子教育と手芸としての「造花」/山田興松の日本美術女学校/対米進出と「造花」という輸出産業/第10章 原風景の向こう側──『都市のドラマトゥルギー』再考/再び、都市のドラマトゥルギーへ/渋谷裏街としての神泉・円山町/新宿裏街としての東大久保/モザイク都市としての新宿/終章 敗者としての東京とは何か──ポストコロニアル的思考/1 敗者への意志──山口昌男と鶴見俊輔/「判官贔屓」と敗者への想像力/日本近代と敗者の精神史──山口昌男の敗者論/「敗者」への壮大な意志としての鶴見俊輔/2 敗者としての戦後──加藤典洋・中村秀之・長谷正人/戦後日本と敗者の想像力──加藤典洋の敗者論/ポスト占領期の映画における敗者/山田太一のテレビドラマにおける敗者/3 近代と敗者の思考──シヴェルブシュとワシュテル/敗者におけるパターンの反復──ヴォルフガング・シヴェルブシュの敗者論/大征服時代と敗者の想像力/4 東京における敗者の想像力とは何か/コンタクトゾーンとしての都市/東京のポストコロニアリズムは可能か?/註/あとがき
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