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内容説明
マルチェッロが殺人を犯したのは13歳のとき。以来、日常生活のなかでは「正常」であろうと努め、果てはファシズム政権下のイタリアにて政治警察の一員に。人並みな結婚を目前にある暗殺計画に関わることになるが、任務中に思わぬ欲望が芽生えて……。映画『暗殺の森』原作としても知られる、20世紀最大の小説家の一人による円熟期の代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
64
自分が異常だと感じてしまったがために、それを他人には知られまいとしたために、大多数の中の一人になりきろうとしたマルチェッロ。だが、その大多数も、一人ひとりをよくよく見ると実はみな一癖も二癖もある秘密を抱えた者たちだった。そして、自分の身を守るためにと属した多数派は、実は誤った理論を信奉していた・・。マルチェッロの悲劇は、しっかり自分の罪と向かい合わなかったことの代償なのか。ちゃんと自分で考えることなく多数派だということに安心して身を任せてしまったマルチェッロを、私たちは笑えないのではないだろうか。2023/05/14
藤月はな(灯れ松明の火)
57
両親から気に掛けてもらえず、弱きものを殺す残虐性を内包していた少年。幼い彼が罪を犯したのは自己防衛故だったが、罪の発覚を恐れる彼は「普通」になろうとする。時代の波に乗り、ファシストに所属し、義務的な結婚をした彼の今後は順風満帆に思えた。暗殺対象である恩師の若き妻に今まで抱かなかった恋慕を抱くまでは。今までの立場が崩れ去ろうとした時に今までの生き方の根底を覆される事実が明かされ、他者への思いやりが生まれるとは何て皮肉なのだろう。また、解説での映画のとある場面での解説と私が抱いた感想で差異があったのも印象深い2023/08/18
かすみ
10
主人公の男性が子供のときの出来事をきっかけに、自分が正常であると思いながら生きていきます。古典で難しいかなと思いましたが、すらすらと読めました。2023/03/04
walkalong621
9
だが、彼が必要としていたのは、他でもなく、自分の隣人たちとのさらなる共通点ともいえる没個性的な醜さだったのだ。悲劇的な結末が印象的な、静謐で美しい映画「暗殺の森」の原作と知り読む。主人公の優柔不断さ・決断力の無さへの批判的視点が目立った映画とは異なり、小説は少年期から加虐衝動に悩み、成り行きで人を殺したトラウマから過剰にファシズム社会に同調しようとする主人公を彼自身の視点から描いている。その結果、彼の選択がやむを得なかったもののように感じられやすい(発表当時左派から批判があったとのこと)のは事実だろう。2025/11/09
うさえ
6
イタリアにおけるファシズムの時代が舞台だが、政治小説や反戦小説ではない。体制側の諜報部員であるマルチェッロの視点で、物語は語られていく。内面に、絶望的なほどの哀しさ・寂しさ・恐怖を抱えた彼にとって、他者と同じ「普通」の人間として社会に紛れ込んで生きるのが何よりの優先事項であり、多くの人が支持するものを信じる(もしくは信じるふりをする)ことこそ「正しい」行為であった。その帰結が語られるエピローグを、我々は胸が締めつけられる思いで読むことになる。我が身の内のマルチェッロに気づき、改めて作品名に戦慄する。2023/04/07




