ちくま新書<br> ルポ 大学崩壊

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ちくま新書
ルポ 大学崩壊

  • 著者名:田中圭太郎【著者】
  • 価格 ¥935(本体¥850)
  • 筑摩書房(2023/02発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480075390

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内容説明

教職員に罵声を浴びせて退職強要。寮に住む学生ら45人を提訴。突然の総長解任。パワハラの捏造。ここ10年ほど、日本全国の大学で、耳を疑うような事件が頻発している。こうした事件の取材を始めた著者のもとには、全国の大学教員や学生から、悲鳴にも似た訴えが続々と寄せられるようになった。2000年代以降に行われた国立大学の法人化や国の法改正により、政財界や大学経営者の権力が強化され、教職員や学生の立場は弱くなり続けている。疲弊する現場の声を集め、大学崩壊の背景を探る。

目次

はじめに/第一章 破壊される国公立大学/1 崩れ落ちた京都大学の「自由」と「自治」/大学が学生四五人を訴える/突然打ち切られた老朽化対策交渉/吉田寮を否定していた「監査報告書」/京都大学の自由と自治を破壊するのは誰か/相次ぐ学生の処分と「タテカン訴訟」/2 北海道大学総長「理由なき解任」の謎/前代未聞の国立大学総長の解任/解任でなければ「文科省は納得しない」/パワハラの公益通報は存在しなかった/解任決議の旭川医科大学学長は辞任で幕引き/一日だけの総長復帰を打診/3 国立大学学長選考の闇/トップの「独裁化」が進む国立大学/学長任期撤廃で「独裁化」の筑波大学/学部長も教授も学長が決める大分大学/東京大学総長選考のブラックボックス/監事の権限強化と国の間接支配/4 市長と取り巻きが破壊する下関市立大学/始まりは下関市長の強引な縁故採用/市がルールを変更し大学を思い通りに/着任前に理事に就任、二年で学長に/司法の場では教員側勝訴/労働委員会は執行部の違法性指摘/5 強まる政府による大学支配/国立大学を狂わせた法人化/国立大学に対する「国家統制」/「稼げる大学」とは誰のための大学か/第二章 私物化される私立大学/1 「教育より収入」変質した山梨学院大学/まるでベンチャー企業の経営者/労基署からの勧告を無視して大量雇い止め/妻の会社に発注も金額は明かさず/給与支払い遅延の裏で理事長らの自宅に謎の会社/理事長の「暴走」は許されるのか/2 留学生の不適切入試の疑いで混乱する札幌国際大学/不適切入試を学長が告発、理事長は反論/記者会見に同席していた教授を懲戒解雇/玉虫色の結論と文科省OBの存在/3 「教授会に自治掲げる権利ない」追手門学院のガバナンス/理事長と学長・教授らの対立/不当配転無効訴訟の判決が出る直前に懲戒解雇/高裁の和解勧告では異例の「前文」/根底にあるのは大学や教授会の自治の否定/4 音楽の名門「上野学園大学」募集停止の 末/突然発表された翌年度からの学生募集停止/石橋家の経営をめぐる問題が噴出/前理事長は一旦職を辞するも要職に戻る/理事会が守ろうとしているものは/5 混迷する私立大学のガバナンス改革/相次いだ日本大学の不祥事/独裁と私物化を進めた前理事長の逮捕/迷走する国の「ガバナンス改革」の方針/第三章 ハラスメントが止まらない/1 「まるで拷問」追手門学院の退職強要研修/追手門学院などを元職員ら三人が提訴/光を遮断した部屋で怒鳴る講師/一人退職で一〇〇万円の成功報酬/学内や他大学でも経営トップ主導で「パワハラ研修」/2 パワハラに甘い山形大学の混乱/パワハラ教授の処分は「減給一万円」/キャンパス内で起きた火災とスタッフの死/センターで起きていた集団パワハラ/研究費三〇〇〇万円を不正使用/山形大学は「パワハラに該当しない」/3 院生の「八人に一人がハラスメント被害」の東北大学/相次ぐハラスメント/八人に一人の割合でハラスメントを経験/学生がハラスメントから守られていない/4 最高裁が「セクハラ捏造」を認定した宮崎大学/身に覚えがない理由で懲戒解雇される/「パワハラ・セクハラで解雇」と報道/亡くなった女子学生との関係を捏造/裁判資料で明らかになった驚きの事実/勝訴の決め手/ハラスメント「捏造」は検証されたのか/5 後を絶たない大学内でのハラスメント/あらゆる人間関係でハラスメントは起きる/機能しないハラスメント相談窓口/文科省も指針を持たず/第四章 大学は雇用破壊の最先端/1 「学部再編失敗で大量リストラ」奈良学園大学の暴挙/教員四〇人をリストラ/学部再編を申請も文科省から「警告」/大学や学部新設で二度にわたる虚偽申請/一審で解雇無効と一億円超の支払い命じる/2 視覚障害がある准教授を教員から外した岡山短大/障害者差別解消法を無視/退職勧奨ののち、強引な職務変更/職務変更命令は「不法行為」の判決に応じず/岡山労働局による調停も教職復帰は果たせず/3 「五年でクビ」早稲田大学、東京大学の二〇一八年問題/非常勤教職員の雇い止め「二〇一八年問題」/度重なる違法行為が発覚/「東大ルール」は五年でクビ/違法な就業規則作成と女性差別/4 「一〇年でクビ」研究者の二〇二三年問題/改正労働契約法の特例が審議不足のまま成立/改正労働契約法も特例も無視する東北大学/「限定正職員」に合格しても解雇される/全国に広がる可能性がある二〇二三年問題/5 大学で広がる教職員の「使い捨て」/労働法制を無視する大学執行部/不条理な解雇・雇い止めにどう対抗するか/非常勤教職員でも交渉する方法はある/個人で雇い止めに対抗するには/第五章 大学に巣食う天下り/1 文科省職員の「現役出向」と「天下り」/文科省の違法な天下りあっせんで大量処分/文科省から国立大学への「現役出向」/汚職事件も起きた文科省/2 文科省事務次官の「天下り」と大学/国家公務員法改正前の事務次官たち/事務次官経験者で唯一の国立大学学長/天下りあっせん問題で処分された元事務次官たち/3 天下りと出向者が教育を破壊する福岡教育大学/教員を大幅に減らして、役職者を増やす/学長や文科省関係者による「改革」の結果/「不当労働行為認定を不服」で提訴も最高裁で敗訴/最高裁で敗訴しても誰も責任とらず/4 天下りが支配する目白大学/天下りが次々と幹部に就任/給料を大幅に削減する「ライフプラン」/文科省からの指導と理事たちの闇/5 文科省にとっての大学とは/国立大学にも私立大学にも天下り/拙速な改正をした大学設置基準/大学は誰のためにあるのか/おわりに/主要参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

trazom

121
私は、小泉・安倍・菅政権に言いたいことはいっぱいあるが、最大の怒りは、彼らの「学問・学者に対するリスペクトの欠如」である。本書でルポされている大学自治の崩壊、学長選挙の闇、トップの独裁化、ハラスメントの横行、研究者の雇用破壊等は、国立大学法人化とそれに続く学校教育法等の改正に伴って想定外に生起した副作用ではない。一連の教育改革を通じて為政者たちが目指した方向での必然の帰結が、この大学崩壊である。コロナ禍の外出自粛で、「本を読もう」ではなく、トラベルやイートと叫ぶ反知性主義の政権が齎した大学崩壊である。2023/08/27

アキ

107
日本大学の不正の報道はニュースで知っていたが、全国の大学でこれだけの理不尽な問題が起こっているとは知らなかった。大学の「独裁化」と「私物化」が進んだ現状の始まりは、2004年の国立大学法人化であった。それ以降学長の権限が強化され、大学は文科省から国立大学への現役出向により運営費交付金を確保しようとし、汚職事件も起きている。大学に入学する人口が減少しているにもかかわらず、この50年間で私立大学は倍増したことによる2018年問題で非常勤講師の雇い止めも後を立たない。ハラスメントの起こりやすい環境も問題である。2023/03/12

kaoru

69
学問の自由が確保されるべき大学で近年進む自治の崩壊の実態。国立大学法人化と学校教育法の改正以来、国公立大で進む独裁化、私立大の私物化などの事例が多数紹介される。ガバナンスの強化による筑波大や大分大での軍事研究への応募と採択。大量の雇止めや様々なハラスメント。教職員の雇用を不安定にし、彼らの意欲をそぎ、ひいては知の衰退を招くような事案ばかりだ。小泉・安倍政権以来続く国家統制の強化に大学関係者は憂慮しているだろう。利潤追求が至上とされる現代において反知性主義めいた動きがこれ以上進まないことを願う。2023/11/17

そうたそ

13
★★★☆☆ 一つや二つというレベルではなく、全国の数々の大学で起こっている問題に唖然とするばかりだった。大学も一つの企業だと考えれば、普通では考えられないようなことが起こっている。企業努力のようなものも見受けられず、ただただ大学が大学であるが故の慢心のようなものが感じられるばかり。"大学全入時代"と言われる現代だからこそ、意識改革が必要だろうが、世の中の大学の多くは時代に逆行しているような気がしてならない。2023/04/04

さとうしん

12
最初の文科省による国公立大学の学長、総長等大学幹部の人事介入の話だけでも、軍事研究に否定的な候補者の排除、特に下関市立大学では安倍絡みの人事であることが疑われる(もっと言えば、個人的には統一教会も関係しているのではないかと疑っている)等々が示唆され、お腹いっぱいになる。最後の章を見ると山形大の事例なんかは天下り人事が引き金となっているようなので、究極的には大学のすべての問題は文科省、ひいては統制を志向する国家の問題ということになるのだろう。2023/09/15

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