内容説明
なぜ市民が参加し、年末に行なわれるのか
「第九」が若き日本にもたらした自由と平等
ベートーヴェンが1824年に完成させた『交響曲第九番』は世界中で演奏され、日本では毎年5万人以上が歌っている。
この『第九』がいかにして日本に受け入れられ、市民参加型の合唱として定着していったのか。そこにはシラーやベートーヴェンの自由や兄弟愛などへの思いに共鳴し、『第九』を演奏しようとする人びとの姿が見出される。またラジオやレコードといったメディアがこのブームを支えていたことにも気づかされる。
市民参加型として、戦後すぐの時期に日本各地で上演され、1954年には東京の勤労者音楽協議会(「労音」)が会員参加による『第九』を実現した。さらに調べを進めると、すでに戦前戦中にその土台が整っていたことがわかる。私立学校の合唱団が、新交響楽団(現NHK交響楽団)と幾度となく『第九』を共演するなど、自由学園、成城学園、玉川学園などの教育において音楽などの芸術が重要視され、盛んに合唱がおこなわれていたのである。
これまであまり知られてこなかった松本や岡山などの『第九』上演関係者の言葉に触れながら、新しいものをみずから生み出そうという希望と熱気に満ちた若々しい日本の姿を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
104
同じ著者の「第九 祝祭と追悼のドイツ20世紀史」に続き、本書は、日本における「第九」受容史である。日本人による初演が1924年(関東大震災の1年後)、東京大空襲の直後には日比谷公会堂での演奏会、1949年8月6日に広島での演奏(第4楽章だけ)など、歴史の節目に「第九」があった。戦後の第九の普及における「労音」の役割の重要性も認識する。合唱未経験者の素人が、時間をかけて練習を重ねて舞台に立つことによって得られる高揚感が、高度経済成長と重なっている。さて、分断された現代の日本社会で「第九」の意味は何だろうか。2023/03/18
どら猫さとっち
7
ベートーヴェンの交響曲第9番=第九。クラシックのみならず、ジャンルを超え親しまれる名曲だ。日本では年末の風物詩であるが、いつから定着していったか。その後はどのように演奏されたのか。本書でその歴史と謎に迫る。大正から始まり、第二次世界大戦、そしてコロナ禍の現在までを辿っていく。第九が持つメッセージは、世界を超え、この国に根付いている。危機を超え、歓喜へと導くこの曲は、色褪せることなく生き続ける。第九の魅力が詰まった稀有な一冊。2023/04/04
nao1
3
日本にどうやって年末の第九が風物詩と言えるほど根付いていったのかを、膨大な資料からまとめた本。音楽学校の合唱団、私立の学校の合唱団、国内の指導者、外国からの指導者、レコードの普及、ラジオの役割、イベントの企画、収支、楽団の電車移動、宿泊、労音の役割、、、、記録が整然と語られる。 戦前の新しい音楽への憧れ、戦後の音楽への情熱の高まり、歌うものの喜び、聴く人の高揚感、それこそ「歓喜」である。この楽曲と詩の圧倒的なすばらしさが人々を突き動かしていることが浮かび上がった。2023/08/09
茶々丸
3
12月になると頻繁に演奏されるベートーヴェンの交響曲第9番。これが日本でどのように受け入れられてきたのかを紐解いている。 昔、小学生の時にこの曲のメロディーで、通常の第9の歌詞とは異なる日本語で合唱をさせられた記憶がずっとあったのだが、本書にその歌詞が掲載されていたのは懐かしかった。 「よろこびの歌」というタイトルらしいが、今でも小学校でやるのだろうか。しかし、このように小学生でみんながメロディーに親しんだことも、第9がクラシック音楽にあまり縁のない一般市民にも受け入れられた一つの要因だったようだ。2023/01/18
Tsuchi(TSUCHITANI.K)
0
日本の第九の歴史 ひとつの視点か2025/08/14
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