内容説明
『アーモンド』の著者が贈る、極上の短編集!
ミステリー、近未来SFから、心震える『アーモンド』の番外編まで、珠玉の8編を収録
彼氏に振られ、職場をクビになり、賃料の値上げによって、今住んでいる部屋からの退去を余儀なくされた、踏んだり蹴ったりのシヨン。
部屋探しのアプリで、格安の超優良物件に出会った彼女は即、入居を決める。
格安なのには、理由があった--
本来二人で暮らすはずの部屋を、四人で違法にルームシェアしていたからだ。
優雅な独り暮らしには程遠いものの、そこそこ不自由のない生活を送っていたシヨンだが、ある日、オーナーが急遽、部屋を訪れる。
慌てた四人は共同生活の痕跡を消すべく、その場しのぎの模様替えをし、借主の親族のふりをするが……(『他人の家』)。
表題作ほか、人間心理の深淵をまっすぐに見つめた、傑作揃いの短編集!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
111
家族とか夫婦とか世界中似たような事情があって似たような気持ちがあると思う。夫婦だからぶつかり合うのはどこの国でも同じ。憎しみの行き着く先もおそらく身近だからこうなるのだと思う。フィンランドにもあんな人はいますよ。酔っ払いが寒い外で叫んでる。こんな変なのは自分の国だけだろうと思ったが、そうかどこでも同じかと思った彼は、もう少し思考のすそ野を視野を広げて欲しかった。韓国も民泊ブームの頃だろう。仮面夫婦のマンションに予約ドタキャンからの突然に来訪したフィンランド人のおばさんの存在が光をもたらすかに見えたが。2023/02/17
fwhd8325
96
長編とは違った味わいを感じます。どの作品もシャープな感覚が面白いと感じました。一作目「四月の雪」でガツンときました、そして「怪物たち」で、驚きました。私は、この作品が一番面白いと感じました。これまでの長編にも満足していますが、短編にはエッセンスが凝縮された面白さを感じました。2023/05/27
J D
75
ソン・ウォンピョンさんの初の短編集。訳者がいつもの矢島曉子さんではなく吉原育子さんでした。いつもと訳者が異なるからだろうか、少し違う印象を持ちながら読んだ。こういう時に原書で読める語学力が欲しいと思う。ただ、違和感を感じたのも「四月の雪」や「zip」で「他人の家」や「文学とは何か」、「箱の中の男」を読むといつもの感じがした。特に「箱の中の男」のあのシーンは既視感を抱いた。また、「アリアドネの庭園」は、こんな小説も書くんだと引き出しの多さに驚いた。納得の短編集でした。2023/03/23
美紀ちゃん
71
自分を犠牲にして人助けできるのか?子供を助けてケガをした兄。弟はその兄の苦しい日々を見て何事にも関わらない方が正解だと思ってしまう。そんな中、倒れている女性に遭遇。何もできない弟。そこにいた女の子は学校で習った心肺蘇生を始める。的確な指示も出してくれた。呼吸の止まってしまった女性を夢中で蘇生した。2人で協力して。やはり人助けはするべきなのだと思い直す弟。心の中に吹く風は爽やかなものに変わったのだと思う。弟が目撃した殺人事件が「アーモンド」のユンジェが経験した事件だった。どれも印象的で丸ごと良い本だった。2023/03/04
konoha
59
「アーモンド」からさらに進化していると感じた。訳文が美しい。クールで淡々とした雰囲気。フィンランドの女性客を泊める「四月の雪」は村上春樹っぽい。高齢者と若者がマッチングする「アリアドネの庭園」はAIが働く近未来の世界。若者が「美しい物語を聞かせて」とお願いする場面が印象的。「箱の中の男」も良い。韓国映画の「パラサイト」が好きなので、他人の家をのぞき込む設定や雰囲気がパラサイトみたいと思った。独特の視点や言葉のセンスが優れている。他人の目を通じて自己の葛藤ややるせなさ、温かさまで浮き彫りになるのが面白い。2023/06/16