内容説明
なぜ父と母は別れたのか。なぜあのとき、自分は母と一緒に住むと勇気を持って言えなかったのか。理由は何であれ、私が母を見捨てた事実には変わりはない――。完成しながらも手元に遺され、2020年に発見された表題作「影に対して」。破戒した神父と、人々に踏まれながらも、その足の下から人間をみつめている踏絵の基督を重ねる「影法師」など遠藤文学の鍵となる「母」を描いた傑作六編を収録。(解説・浅井まかて)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
50
周作先生の父、母への想いが伝わってくるようでした。その軸にはやはりキリストへの想いがあるのでしょう。2023/06/27
優希
44
再読です。6編からなる短編集です。どの短編も「母」がキーワードになっているように思います。それは周作先生の髪への想いでもあり、母がいなかったらクリスチャンになることもなかったでしょう。周作先生の原点と言っても良いと思います。2023/11/23
活字の旅遊人
32
全6作の短編集。サブタイトルの通り、母の話題で統一されている。最後『還りなん』以外は似た背景設定。大連の暮らし、両親の不和、母子家庭生活、洗礼、その後に再婚した父との暮らし。それぞれに含まれる寂しさとそこから生まれざるを得ない諦めと強さ。母を追う精神は、神が応えてくれないというあのテーマと同じなのかなあと感じた。母が芸術を追求して子どもを見ない(と子どもに感じさせてしまう)という件だが、現代では芸術のような分野に限らず「仕事」でそれをやってるケースが増えているだろう。「仕事」が「スマホ」になってるかも?2023/11/04
ホシ
21
苛烈なまでに「本当の人生」を生きる母が描かれた6作品。もちろん、これら作品のモチーフは遠藤の母・郁。作品からは遠藤の複雑な、というよりは屈折的な母への愛が窺えます。「あたたかさ」といった言葉とは対称的な母の姿に少年・遠藤周作のみならず周りの親族らも困惑します。しかしそれでも、遠藤の胸には母が、いわゆる「母」として大きく存在し、周りの人々が母を蔑むことに抵抗します。江藤淳氏は『沈黙』に示されたイエスは母であると評じたそうですが、私は本作を読んで遠藤はイエスに彼自身を重ねたのではないかという思いを持ちました。2023/07/30
tomoka
13
父親から受けついだ臆病さや弱さに傾いていく自分を軽蔑する一方で、母親から受けついだ「何か」でバランスを取って生きていたのか。2023/03/25