内容説明
「これはある若者が経験した二つの真剣勝負の物語。ひとつは少年のころ、もうひとつはその十一年後」――戦後間もない東京。GHQに接収された劇場で、米国の新型電気計算機と、日本のソロバンとの計算試合が催された。日本代表に選ばれたのは、逓信省に勤める竹崎晴夫。調布の日活映画村で育った心優しい青年は、平穏な人生のある日、いきなり脚光を浴びることに。しかし彼が一世一代の勝負に挑むのは、人生で二度目だった。知られざる史実を基に、誰もが持つ「譲れないもの」を描きあげた傑作。
目次
第一章 コマ――森の落としもの
第二章 ザ・ハンズ――アーニー・パイル劇場の戦い
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆみねこ
69
戦後にあった史実に基づいたストーリー。GHQに接収された劇場で米国の新型電気計算機とソロバンの対抗戦が催された。日本代表は逓信省の若き職員・竹崎晴夫。2部構成で前半は晴夫が暮らした調布の日活村での少年時代。ソロバンと出会う前の晴夫少年の物語だが、彼の人となりを知るためにはやはり欠かせないものかと。面白かった!犬飼六岐さん、初読み。2023/02/07
雅
56
戦後に行われた、ソロバンと計算機の勝負。思いの外、熱い戦いが描かれていて面白かった。2024/07/03
Tadashi Tanohata
25
日本「ソロバン」とGHQ「電気計算機」の加減乗除の計算試合、史実に基づく一冊。古き日本人の矜持を堪能する。やはり「論語と算盤」、ソロバンと日本語が現代日本人の礎を築いたとは過言ではない。内閣も一新したが、どうぞこの矜持を持って政策に外交に臨んでほしい。「パチパチ」とはまばらな拍手ではないですぞ、ソロバンを弾く、そう矜持が弾ける音です。2023/09/16
Mc6ρ助
16
『この景色はどれだけつづくのだろう。そして、いつどんなふうに変わるのだろう。そのときにはまたどこかの国と戦争を起こしているのだろうか。(p151)』読み友さんの感想から。占領下の日本、アニー・パイル劇場(東京宝塚劇場)でソロバンでアメリカの機械式計算機と勝負する。勝負の結果はなんとなく知れているとはいえその対決をクライマックスに主人公の幼年期のエピソードから丁寧に描いていく。恬淡にみえる主人公に影響されてか大きく盛り上がることもないのだが読み終えて何かが心に残る。2023/04/26
道楽モン
16
実在モデルの半生をそのまま書いても良いのだろうけれど、エンタメとしての商品に仕上げるべく、構成、場面選択、脇役の立て方、文体などを練りに練るのが職人としての作家さんの腕の見せ所。本作は2部構成で、少年時代の第1部にはソロバンがまったく登場しません。これは何か企んでるなと期待して読みましたが、第2部を盛り上げる為の伏線などは殆ど無し。けれど第1部があってこその作品なんだと納得の構成。昨今、エンタメ小説に氾濫する伏線回収、どんでん返しの小賢しいテクニックよりも、少年時代をじっくり描くことを選んだ手腕に拍手。2023/03/01
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