内容説明
少年ミシェルはJ.D.サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン・コールフィールド、
あるいは忘れがたいレジャン・デュシャルムの『曖昧なる鼻』のミルミル加わって、
私たちの小説の記憶の中に長く留まるだろうことを断言する ―J.M.G ル・クレジオ
舞台は1970年代終わり頃のコンゴの大都市ポワント=ノワ ール。主人公はアルチュール・ ランボーの『地獄の季節』を愛読し、ブラッサンスを愛聴する少年ミシェル、12歳。ガールフレンドは愛くるしい同級生のカロリヌ。父親はフランス人所有のホテルで働き、白人客が残した本を家に持ち帰ってくる。母親はもう一人子供をほしがっていて、「お腹を開く鍵」はミシェルがもっていると呪術師が告げる。飛行機が頭上を横切り、ミシェルと年上の友人ルネスは着陸する国を夢見ている。自国はマルクス レーニン主義一党独裁体制。ラジオからはテヘランアメリカ大使館人質事件、イラン皇帝シャーの死などのニュースが流れる。少年ミシェルの周りにおこる数々の波瀾、ユーモラスな出来事、不思議な経験を作家アラン・ マバンクは淡々と暖かい眼差しで描いていく。幼年・青春の思い出を下敷きにした感動の自伝小説。フランス語圏ブラック・アフリカを代表する作家の代表作待望の翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
50
無邪気でちょっと間の抜けた少年が、ありふれた日常を生きながら小さな窓を通して、大人の世界や複雑な社会を覗き見る。ビルドゥングスロマンと言っても良いだろうか。遊んで、喧嘩して、恋をしての瑞々しい青春と、鹿爪らしい政治の語りが、はっきりとしたコントラストを作っていて面白い。大人たちの世界で何が起こっていようと、遠い20歳を夢見る少年少女には希望が満ち溢れていて、それはどこの地でも変わらないし、変わらないべきなのだ。異国の歴史を理解する難しさはあるにせよ、爽やかで読み心地が良い作品。こういう小説はとても好きだ。2023/02/04
hiroizm
19
1970年代末のコンゴ都市部家族の日常を、小学5、6年生くらいの少年視点で描いた人情コメディストーリー。家族といっても、少年の母は実父から離婚され、母子家庭となった後にホテルに勤める現義父の第二夫人。少年の母は市場で働いているため、多忙時少年は第一夫人家族に預けられる。この場合少年は義父や第一夫人やその家族に虐められる展開になりそうだが、義父も第一夫人もやさしく義兄も面倒見よく少年を受け入れている。その他友達や幼馴染のガールフレンドとの交流を通し、成長しつつある少年の心理描写がこの小説の核となっている。2024/09/20
uniemo
16
飛行機を見上げてたどり着くであろう他の国を想像したり、父親が聞くラジオを解説してもらうというわずかな情報量から世界で起きた事柄を自分なりに理解していく主人公の聡明さと、周囲で起きる子供らしいエピソードが程よいバランスで起伏のある小説ではないけれど面白い作品でした。2023/05/06
Erinelly
2
好奇心旺盛で、自分の頭の中で仮説を立てて世の中を理解しようとする純粋な少年。それを大人になってから振り返る、著者マバンクの、人間に対する眼差しの温かさが感じられる。同時に、当時の世界政治状況が垣間見られて興味深かった。2023/04/02