内容説明
向き合わずにいられて、安全圏で生きられて、いいな―。イジメを見てみぬふりした自分に嫌悪を抱く伏見と、障がい者の兄と暮らす敦子。傷だらけで世界への違和にあらがう高校生たちの物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ででんでん
56
とてもむずかしいことをテーマにしている作品だと思うが、読んでよかった。かっちゃんの妹の視点や感じ方の描写が特に心に残った。かっちゃんが好きだという気持ちと、外でツボイさんと読んでしまう気持ち、家の中での楽しさや愛情が、外、世間…というものにまといつかれ、変質し減ってしまうような気持ち。古川については、前半と後半のつながりが、私の中ではしっくり来なかった。2023/03/07
もぐもぐ
36
分教室と呼ばれる特別支援学級で起きたイジメ。いじめた生徒も、止めに入った同級生も、傍観していた友達も、卒業して何事もなかったかのように生きている。と装って、皆の心に残り続ける葛藤。難しいテーマですが、単なる善悪の対立構図で終わらせない描き様が見事でした。短い話ですが色々考えさせられます。誰に対してもニュートラルに接する明石さんの姿は、著者の想いを写しているのでしょうか。温かい終わり方でした。2023/01/29
けんさん
25
『何食わぬ顔をされるもどかしさ、するもどかしさ…』 障害を持つ少年に対するいじめ。傍観者の視点、当事者の視点から、どうにもできないもどかしさに悩みながらも、正解を見つけようとする若者の姿を描いた作品。読後に感じるもどかしさ。これも作者の狙い通り?2023/04/15
marumo
20
高校で起こった特別支援学級へのいじめ事件。凄惨な描写が多いんだろうな…と腰は引け気味。でもね、高校生だからね「菌遊び」を始めた古川は相手にされずドツボにハマってしまう。古川自身が厄介な性質で、それを自覚して無様にもがいているんだけど、前半と後半では別人かと思う変わりよう。いわゆる「傍観者」だった子も、家族も、思いは一色ではなく常に揺れている。普通かどうか日々答え合わせをして、普通じゃない自分を嫌ってしまう、恥じてしまう。何食わぬ顔をした子たちの千々に乱れる胸中を覗き見た気分。幸せになってほしいな。2023/07/04
やまかぶ
19
16才で文藝賞を受賞した若き俊英の、受賞後第一作。特別支援学級で起きた、いじめ事件の、当事者・関係者・傍観者たちが描かれる。特に「安全圏で生きられて、いいな」という帯の惹句に使われた台詞が、物語を象徴している。いじめを行ったと目される人物の造形がやや作為的というか、実際にやらかす奴は、こんなに内省的な観点は持ち合わせない。昨今、取り沙汰される、やらかし動画拡散系の「バカが自らのバカを喧伝」するのを見ればわかるんだけど。でもこれは、作者の頭の良さ、育った環境の良さ、あるいは優しさではないか、と感じられた。2023/02/05