内容説明
北條民雄(1914-37)は19歳でハンセン病の宣告を受け全生病院に入院してから僅か三年半で夭折した.隔離された療養所で様々な差別・偏見に抗しつつ身を刻むようにして記された彼の言葉は絶望の底から復活する生命への切望を証しする文学であった.川端康成によって見出されたこの稀有の作家の文章を,小説,童話,随筆,書簡,日記から精選する.
目次
小 説
いのちの初夜
間木老人
吹雪の産声
望郷歌
童 話
可愛いポール
すみれ
随 筆
発 病
発病した頃
眼帯記
書けない原稿
独語――癩文学ということ
柊の垣のうちから
井の中の正月の感想
断 想
日 記(抄)
一九三四(昭和九)年
一九三五(昭和十)年
一九三六(昭和十一)年
一九三七(昭和十二)年
書 簡(抄)
川端康成への書簡
臨終記……………東條耿一
注 解
解 説……………田中 裕
略年譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
keroppi
80
今月のNHK「100分de名著」で取り上げている「いのちの初夜」を読みたくなって。ハンセン病が癩病と呼ばれ施設に隔離されていた頃、隔離され進行する病の中、文学に取り組んでいた著者。不当に社会から隔絶され、患者たちによる異様な社会があり、不条理文学に見えないこともない。身体は異様に崩れ、死の恐怖と向かい合い、いのちを見つめて生きている。その壮絶な生き様死に様が迫ってくる。コロナ禍の今だからこそ、病の恐怖は、切実に感じられる。小説の他、童話、随筆、日記、川端康成への書簡も収録され、北條民雄の生と死を見つめた。2023/02/16
ykshzk(虎猫図案房)
26
いのちの初夜のみの感想。隔離施設に入所したばかりの尾田。身体や顔が崩れてしまう病におかされている患者達は人間ではなく「いのち」そのものだという先輩患者の佐柄木。彼は「癩者になり切ること」が大事とも言う。が、とてもそこに至れそうもなく戸惑い死のうと試みる尾田。ともに眠らぬ一夜を過ごした夜明け間際、佐柄木と散歩に出かける折に、尾田は、不安を持ちながらも自分自身「いのち」そのものとして再出発する勇気を持てそうな予感を得る。傑作。2024/02/19
Ex libris 毒餃子
11
実体験をベースにしている本は説得力が強い。「いのち」の表出がありありと描写されている。2022/03/12
翔
8
いのちの初夜が今月の100分de名著の題材ということで読んでみた。ハンセン病(当時は癩病)を患った作者だからこそ書ける作品たちと言えよう。病気を患ったからといってネガティブな内容で染まっているわけではなく、その中でどのように生きたのかということを創作であったり手記であったりというかたちで残っているのは貴重な資料とも言えそう。2023/02/04
カオルオ
6
癩(ハンセン病)文学・・・、それとこれとを繋げて一つの単語にしていいものかと思いましたが私が軽率でした。氏は、自らの絶望や苦悩を受け入れ、前向きに誇りを持って文学と向き合っている。反省しました。本書小説では、その病気と絶望と苦悩と(自死を含む)死をどう処理するのか、が全体を通してのテーマになるかと思います。いくら絶望があっても「生きる道」はある。新しい生活を始め、「新しい道を発見せよ」の言葉は身につまされる思いがしました。随筆はより露骨な文筆になりますが、思いを受け止め真摯に思いを馳せたいと思います。2023/08/12