内容説明
映画監督・小津安二郎は異母弟の孫、伊勢松阪の富商、当世随一の人気作家・曲亭馬琴の友人、本居宣長の孫弟子にして、大蔵書家、そして江戸時代最大の紀行文作家・小津久足。湯浅屋与右衛門、小津桂窓、久足、雑学庵という四つの名前を使い分けて生きた男のそれぞれの営みを通して、近代とは似て非なる、あるがままの江戸社会を探る。文学、歴史、文化、経済を横断すると、あり得たかもしれない、もう一つの日本というパラレルワールドが見えてくる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
akuragitatata
4
最初の近世の経済からみる「近世」観がバツグンに面白く、その中で商家の文人がどうあったか、どう考えて生きたかという見取り図の描き方が才知を感じさせる。歴史記述の厳密さの一方で、豪遊と人治を両立させた久足の思想にも迫る手練手管の多いユニークな本で、マニアックな題材ながら名著のほまれを受けるべきと思う。途中の文庫界隈のことがらもはあはあと面白く読んだ。とはいえ、判官贔屓も少しあるかもしれない。2023/03/03
iwasabi47
3
以前大室幹雄『月瀬幻影-近代日本風景批評史』をよく理解できないながらも読むと、「風景」を語る主体(たち)にスポットを当てる話だった。まさしく紀行文を書く「小津久足」の話。商家、国学(後に批判)、蔵書蒐集家、歌紀行文の実作から、与右衛門・久足・桂窓(名前の複数性)を“近世的自我”とする。その妥当性は私には判断つきかねるが面白い。久足の蔵書エピソードは本好きアルアルネタが微笑ましい。また私のような初学者にも判るように江戸の基礎知識が織り込まれてそこがいい。久足の翻刻紀行文が読みたくなる。2023/05/08




