内容説明
◆第一句集
ありきたりの身体感覚を彼は言語にしない。
自らの体も心も凌駕する言葉を、力強く選び取る力が岩田奎にはある。
天才とは呼びたくない。俳壇は今、畏るべき青年をたしかに得たのである。
帯より・櫂未知子
◆自選十句
紫木蓮全天曇にして降らず
しりとりは生者のあそび霧氷林
愛鳥週間調律師この木木を来よ
入学の体から血を採るといふ
柳揺れ次の柳の見えにけり
にはとりの歩いてゐたる木賊かな
枯園にてアーッと怒りはじめたる
靴篦の大きな力春の山
ハイビーム消して螢へ突込みぬ
立てて来しワイパー二本鏡割
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
pirokichi
19
表紙に記された櫂未知子さんの「俳壇は今、畏るべき青年をたしかに得たのである」に興味を持って。一番好きだった句は「天の川バス停どれも対をなし」。小さな発見に「天の川」を取り合わせたのがセンスいい。その他初読で好きだった句は「耳打のさうして洗ひ髪と知る」「脊椎はさびしき塔よ大西日」「巻尺をもつて昼寝のひと跨ぐ」「あとはもう案山子に着するほかなくて」「セーターに首元荒るる桜かな」。跋の「一瞬の出会い、あるいは出会いですらないものを一句に残してゆくことが俳句の世界を広げてゆく」という佐藤郁良さんの言葉には頷いた。2023/01/14
kumoi
2
人間の嗜好がデータとして扱われる時代、あるいは誰かの一言によって株価が大きく変動する時代、それは簡単に肯定することも否定することもできない時代である。だって現代がどれだけ残酷な世界であろうと私たちはその中で生きるしかないのだから。しかし例えば、あらゆるものを情報として感知する方法が最善であるはずはない。価値は常に変化するものであり、自然には自然の論理が存在する。月の明るさに目を開き、花野の彩りに驚く。俳句を読んで、呼吸することを思い出す。2025/05/20