内容説明
花の精、花の香、花の色それは美しく、妖しげに揺れる業火 妖花が悪夢を呼び……退廃の美へ
その時私はあっと声を上げた。荒涼とした風が沸き起こり、丘の上に広がる空の闇が布のように二枚にめくれ、大きくはためいて揺れた。そしてお互いに包みあうように丸まり、私を飲み込もうと覆いかぶさってきた。それは巨大な食虫花の漆黒の花弁だった。
【著者】
井本元義
1943 年生まれ
九州大学物理学科卒
詩集『花のストイック』『レ・モ・ノワール』『回帰』『虚日の季節』
小説『ロッシュ村幻影』『廃園』
エッセイ『太陽を灼いた青年 アルチュール・ランボーと旅して』
評伝『織坂幸治』
新潮新人賞佳作 「鉛の冬」
福岡市文学賞 『花のストイック』
文芸思潮まほろば賞 「トッカータとフーガ」
仏政府主催 仏語俳句大会グランプリ
日本ペンクラブ会員
福岡日仏協会理事
目次
序
廃園 …… 牡丹
帰郷 …… ニセアカシア
髑髏と蝶 …… 桜
柳川 …… 椿
図書館 …… カンナ
器械屋の憂鬱 …… 泥の花
薰しぐれ …… 睡蓮
ある弁護士の手記 …… ヒットラーの白い花
巴里スフロ通り …… 音の花
フルスタンベール広場 …… 桐の花
酔芙蓉 …… 酔芙蓉
緑の花 …… 緑の花
R共和国奇譚 …… 食虫花
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふーま
5
花がモチーフになっている短編集。読んでいると香ってくるような、花の香りと死の匂い、音楽や性、恋愛、欲望の果てに主人公たちが行き着く先はーーー?ページをめくるごとに、主人公たちの狂っている言動で、どんどん"花"という話は枯れていく感覚に。まさに廃園・・・この解釈が合っているかどうかはわかりませんが、静かに読書をしているハズなのに、嗅覚や聴覚が刺激されるような不思議な1冊でした。怖い結末ばかりでしたが、この本の最後のページの一文が読み進めてしまったことの全てなのかもしれません。2025/06/30
夜長
2
花園に眠る孤独に私は耐えられるだろうか、夕闇のマドロミのずっと後に訪れる朝焼けの薄明りが見れるまでの短い時間に優しく排他的な堕落に抱擁されて起き上がれなくなるほどの快楽が訪れるなら少しの希望をもって目をつぶってみるのもいいだろう。2021/06/28