内容説明
不当な特権と財産を有し、豪奢で享楽的な生活を送る怠け者たち――このような負のイメージは貴族の一面を切り取ったものに過ぎない。古代ギリシャから現代イギリスまで、古今東西の貴族の歴史を丁寧に辿り、いかに貴族階級が形成され、彼らがどのような社会的役割を担い、なぜ多くの国で衰退していったのかを解き明かす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
120
とてもいい本だと思う。プラトン・アリストテレスが理想とした貴族政治だが、ローマでもフランスでも、富と権力に溺れる貴族への反発が皇帝独裁体制や民主制に道を譲った歴史がある。それに対し、貴族が諸階層の代表となることに成功し、今も貴族院を保持し続けるイギリスの強かさを君塚先生は印象的に描く。貴族たちのノブレス・オブリージュが、現代は「国民全体の責務(ナショナル・オブリージュ)」へ変化したと先生は言うが、本当だろうか。市民に出来っこないと分かっているから、ギリシャの哲人たちは民主制を否定したのではなかったのか。2023/06/23
パトラッシュ
120
古代ギリシャから中国まで、各国の貴族階級が形成されていく経緯を明らかにする。王政の発展期にはその藩屏たるエリートの役目を果たしたが、やがて現状と特権に甘んじて一切の改革に反対し革命に至ったフランス貴族に対し、現状を守るには変わらねばならないのを理解していた英国貴族は身を切る改革を断行して今日まで生き残った。貴族はいないが既得権益まみれの現代国家でも考えねばならない話だ。あと北欧やスペインといった英国以外の欧州諸王国の貴族の現状や、旧ソ連や中国など社会主義諸国を支配する赤い貴族についても言及してほしかった。2023/03/09
南北
43
古代ギリシアや中国(特に南北朝時代)、ヨーロッパさらには著者の専門のイギリスの貴族たちと戦前までの日本の華族を取り上げて論じた本。どの時代・地域でも貴族としての「徳」が重要だとする見解には納得できた。最後に日本でも一代貴族を創設する話が出てきたが、憲法改正が必要なので実現に至るには困難な道が続くことが予想できるだけでなく、第三者機関によるチェックを行って、法案を作らなかったり、政府に質問しない議員を排除することで「徳」を保つ努力を続ける必要があるなど課題はあるがいつか実現してほしいと思う。2023/03/31
よっち
38
古代ギリシャから現代イギリスまで、古今東西の貴族の歴史を丁寧に辿り、いかに貴族階級が形成され、彼らがどのような社会的役割を担い、なぜ多くの国で衰退していったのかを解き明かす一冊。古代ギリシャやローマ、古代中国や中世ヨーロッパといった具体的な事例を取り上げながら、どのようにして貴族階級が形成されて、そして産業構造や戦争の変化によって変容していったのか。中世ヨーロッパの貴族が没落してゆく中で、それでも残り続けたイギリス貴族のなかなかハードな状況でしたけど、それと明治維新後の華族制度の比較は興味深かったですね。2023/03/05
サケ太
22
「貴族」。あまりにもファンタジーなどで気軽に使われているこの言葉。どのように生まれ、継承されていった概念なのか。そもそも貴族とは何なのか。義務を果たしていた彼らは、堕落し、その存在意義に疑義を呈され、民衆や時代によって排斥されていった。第一次世界大戦で土地を失うことになったイギリス貴族たちには同情を禁じ得ない部分があった。ヨーロッパのような貴族を形成できなかった「華族」。現代に民衆が貴族の精神をもつ事を著者は期待されているが、実際に可能なのか。心意気だけでも持っていきたいとは感じる。2023/09/10
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