内容説明
不当な特権と財産を有し、豪奢で享楽的な生活を送る怠け者たち――このような負のイメージは貴族の一面を切り取ったものに過ぎない。古代ギリシャから現代イギリスまで、古今東西の貴族の歴史を丁寧に辿り、いかに貴族階級が形成され、彼らがどのような社会的役割を担い、なぜ多くの国で衰退していったのかを解き明かす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
120
古代ギリシャから中国まで、各国の貴族階級が形成されていく経緯を明らかにする。王政の発展期にはその藩屏たるエリートの役目を果たしたが、やがて現状と特権に甘んじて一切の改革に反対し革命に至ったフランス貴族に対し、現状を守るには変わらねばならないのを理解していた英国貴族は身を切る改革を断行して今日まで生き残った。貴族はいないが既得権益まみれの現代国家でも考えねばならない話だ。あと北欧やスペインといった英国以外の欧州諸王国の貴族の現状や、旧ソ連や中国など社会主義諸国を支配する赤い貴族についても言及してほしかった。2023/03/09
trazom
119
とてもいい本だと思う。プラトン・アリストテレスが理想とした貴族政治だが、ローマでもフランスでも、富と権力に溺れる貴族への反発が皇帝独裁体制や民主制に道を譲った歴史がある。それに対し、貴族が諸階層の代表となることに成功し、今も貴族院を保持し続けるイギリスの強かさを君塚先生は印象的に描く。貴族たちのノブレス・オブリージュが、現代は「国民全体の責務(ナショナル・オブリージュ)」へ変化したと先生は言うが、本当だろうか。市民に出来っこないと分かっているから、ギリシャの哲人たちは民主制を否定したのではなかったのか。2023/06/23
ばたやん@かみがた
109
《現代に呼び起こすべき「貴族」》(1)1章は古代ギリシア・中国の頃からの貴族の成立。2章で中世以降近代に至るまでの欧州における貴族制の発達と全盛・衰退を見た後、3章は君塚先生の本領と言える今なお権勢保つイギリス貴族の歴史とその理由に迫ります。4章では近代日本の華族はどうだったかについて。著者は「貴族が政治・経済・文化あらゆる分野について影響力発揮したのはヨーロッパのみ」とします。当初、では日本の武士は、朝鮮の両班は、と軽く違和感覚えたのですが、読み進むうちに貴族を(1/5)2023/06/04
南北
43
古代ギリシアや中国(特に南北朝時代)、ヨーロッパさらには著者の専門のイギリスの貴族たちと戦前までの日本の華族を取り上げて論じた本。どの時代・地域でも貴族としての「徳」が重要だとする見解には納得できた。最後に日本でも一代貴族を創設する話が出てきたが、憲法改正が必要なので実現に至るには困難な道が続くことが予想できるだけでなく、第三者機関によるチェックを行って、法案を作らなかったり、政府に質問しない議員を排除することで「徳」を保つ努力を続ける必要があるなど課題はあるがいつか実現してほしいと思う。2023/03/31
よっち
38
古代ギリシャから現代イギリスまで、古今東西の貴族の歴史を丁寧に辿り、いかに貴族階級が形成され、彼らがどのような社会的役割を担い、なぜ多くの国で衰退していったのかを解き明かす一冊。古代ギリシャやローマ、古代中国や中世ヨーロッパといった具体的な事例を取り上げながら、どのようにして貴族階級が形成されて、そして産業構造や戦争の変化によって変容していったのか。中世ヨーロッパの貴族が没落してゆく中で、それでも残り続けたイギリス貴族のなかなかハードな状況でしたけど、それと明治維新後の華族制度の比較は興味深かったですね。2023/03/05