内容説明
武家に生まれた明恵は、八歳で父母を亡くし、十六歳で出家。その学才を見込んだ東大寺、神護寺からの要請を断わる一方、釈迦のご遺誡を体現するために右耳を切り落としさえした。承久の乱で朝廷軍をかくまったが、その教えに打たれた幕府軍の総大将・北条泰時が後に帰依したことでも知られる、華厳宗中興の祖を描く傑作歴史長篇。
感想・レビュー
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いつでも母さん
147
「あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月」鎌倉時代前期、実在した華厳宗の僧・明恵。8歳から37年、従者として常に傍で仕えたイサが語る明恵上人のその生涯。ただただ器が違うというか(当たり前?)壮絶で高潔で啞然としてしまう。そのひととなりを乏しい私の語彙力では尽くせないのが厳しく情けない。正直、従者・イサに惹かれる私を許してね(汗)はぁ。 2023/02/12
trazom
96
梓澤さんを読むのは、空也、運慶、鴨長明に続いて4冊目。活劇的な面白味ではなく、史実を忠実に辿りながら主人公の生き様を浮き彫りにする誠実なアプローチが梓澤さんの歴史小説。明恵上人に関しても、右耳切落とし、文覚上人、インド断念、栂尾高山寺、法然批判、厳密、北条泰時など重要なエピソードは逃さないが、物語を貫くのは「夢記」に記された夢の数々。河合隼雄先生が「明恵 夢を生きる」の中で、「阿留辺幾夜宇和(あるべきやうわ)」を「なぜ「あるべきやうに」ではないのか」と解説されているが、その意味が納得できる生涯だと思えた。2024/01/12
タイ子
82
明恵上人についてはお茶の栽培を日本で最初に広めた人物ぐらいにしか知らなくて。明恵が亡くなり、長年側で仕えていたイサが弟子たちのたっての頼みで明恵のこれまでの生き様を語っていく。イサは出家をせずただ従者として臆することなく仕えていた身なのでこの関係がすごくいい。明恵がお釈迦様を思慕するゆえに耳を切り落とすという出来事から物語は始まる。明恵の見る不思議な夢は何度か彼を救い、欲の全てを捨てただ孤独に修行に励む明恵。仏に帰依する他の僧たちと一線を画すように生きた明恵の60年。また1人歴史の一部を垣間見た気がした。2024/06/20
のぶ
78
鎌倉時代の華厳宗の高僧、明恵上人の生涯を従者のイサの視点から描いた物語。明恵は現在の和歌山県有田川町に武家の家に生まれた。八歳で父母を亡くし、十六歳で出家する。その学才を見込んだ東大寺、神護寺などからの要請を断わる一方、釈迦のご遺誡を体現するために右耳を切り落としさえする。そのあたりのことが本作では生々しく描かれている。かなり若い時から頭角を現し、温厚な人間味のある人物で、承久の乱では後鳥羽上皇方の敗兵をかくまっている。梓澤さんは独自の視点から明恵を描き、一僧侶の生きざまを感じる事ができた。2023/02/08
真理そら
61
「あかあかやあかあかあかやあかあかやあかあかあかやあかあかや月」時代的には近い西行の和歌と率直な感性という点では共通するものがあるかも。出家しないまま一番身近なところにいた従者・イサの視点で話が進んで行くので凡夫には理解しがたい明恵像が1人の人間として伝わる(それでも理解しがたいが)2023/04/02