内容説明
「いま、ここにいない人やモノの声を聴く」──都会のへりのガケ下の町。鯨塚があるその町で、僕は〈流星新聞〉を発行しているアルフレッドの手伝いをしている。深夜営業の〈オキナワ・ステーキ〉を営むゴー君、「ねむりうた」の歌い手にしてピアノ弾きのバジ君。〈ひともしどき〉という名の詩集屋を営むカナさん、メアリー・ポピンズをこよなく愛するミユキさん──個性的で魅力的な住人が織りなす、静かで滋味深い長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
196
誰もが悩み、苦い経験や過去を持つ。そんな人達が鯨の関わる町で交流を持ち、気がつけば町に活気をもたらし、交流が豊かになる。なんてことないことなんだけど、淡々として、時には寂しさや静けさも感じる。たけど、一歩一歩、前に進んでる。そんな普通の日常をあまりにもさりげなく書きあげる吉田篤弘ワールド。どう言えばいいのかわからないけど、印象に残らないけど、しっかりと映像は残ってる。夢見心地というべきか。そんな感じかな。吉田篤弘の世界観を堪能でき楽しめた。2021/08/07
nico🐬波待ち中
89
穏やかに流れるクラシック音楽のように、その物語は静かに進んでいく。かつて一頭の鯨が泳ぎついたとされる川。今は暗渠となって遊歩道の下を流れている。幼馴染みの3人の、忘れられない川にまつわる哀しい記憶。長年に渡り閉じ込められた記憶が蘇った時、物語は新たに再生される。時を戻すことは叶わないけれど、人生は何度でも再生して、何度でもやり直せる。たぶん、きっと、おそらくは。/去年単行本を読了。『屋根裏のチェリー』を読んでからの読み直しです。前は気付かなかったあれこれを発見し、改めて感動。次作が今からとても楽しみ。2021/08/28
Ikutan
82
都会のへりのガケ下の町が舞台。鯨塚があるこの町で『流星新聞』を発行しているアルフレッドを手伝う太郎が主人公。深夜営業の『オキナワ·ステーキ』を営むゴー君。メアリーポピンズをこよなく愛するミユキさん。三人には忘れられない過去がある。この町にはかつて川が流れていたのだ。そして鯨が眠っている。ピアノ弾きのバジ君。詩集屋のカナさん。ヴァイオリン弾きの丹後さん。流し目のハルミさん。個性豊かな住人たちの滋味溢れる穏やかな物語。先に『屋根裏のチェリー』を読んだので、そんな経緯だったんだなぁと振り返りつつ味わいました。2021/11/18
minami
67
落ち着いていて優しい読み心地。登場人物はみんな個性的で、ちょっと変わってる感じだけれど、心は温かい。舞台である町も不思議。鯨が関係している。えっ、鯨?そんなシチュエーションに引き込まれていく。この町でタウン誌のような流星新聞を発行している太郎。彼の友人、ゴー君を含めた住人たちが個性豊かで、私はとても癒された。でも太郎の中学時代のある出来事には、かなり驚いてしまった。そうか、人はそれぞれいろんな思いを持って生きているんだな。ままならない事ばかりだ。それでも、冬にもちゃんと終わりがあって、春がめぐってくる。2022/04/20
エドワード
46
ガケの下に町がある。流星が落下した窪みの町。この町に200年前と25年前に鯨が迷い込んだ。タウン紙「流星新聞」編集者のアルフレッド、手伝っている太郎を中心に、食堂を営む椋本さん、ゴー君、ミユキさん、詩集書肆を営むカナさん、無垢チョコ工場でヴァイオリンを弾くタンゴ君、もっといる愛すべき町の人々が次々とつながる物語。アルフレッドが帰国し、机から8ミリフィルムが出てきた。カナさんが編集して上映会を催す。懐かしい風景(昭和!)に感動する。この町に昔あった映画館、その通称が「流星シネマ」。題名を最後に回収ね。2023/10/06