内容説明
「死刑囚」をテーマにした上質なサスペンス・ストーリー
政府高官を殺害した容疑で死刑宣告を受けた、死刑囚の「男」。
死を約束されたにもかかわらず、不気味なほど穏やかに日々を
過ごす「男」に、好奇心を押し殺しながら接する
担当刑務官のユン。
殺害動機も自身の出自さえも明かさない「男」のもとへ、
姉と名乗る女が面会に現れる。沈黙していた「男」の感情は、
それを機に少しずつ、静かに動き始める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
88
私たちは世論に押される。政治も司法も空気を読むとこうなる。死刑も私刑も大差ないのかもしれない。先進国の自負や潮流もあり大臣が承認しないまま宙ぶらりんの実質死刑のない国と位置付けられているそうだ。発端は接見した牧師がマスコミに漏らした受刑者の告白にある。火に油を注いだ。世論は爆発。アイコンだけで盛り上がる世論を前に生身の受刑者を理解し始める刑務官や報道を見て現れた姉の存在ももはや無力。週末見た番組のアントワネットが民衆の手で断罪されるいきさつ、民衆の怒りが決めるカタルシス効果かこれが。と思った。後味の悪い。2022/05/30
吉田あや
87
一人の男の犯行により12名が殺された。犯人は全ての容疑を認め、犯行の動機すらなかった。飄々とまじめな死刑囚として過ごしていた四七四番だったが、たった一人の家族である姉が面会にやって来ることで様子を一変させ、早く死刑の執行をしなければ刑務所にいる人達を皆殺しにすると脅迫を口にする。姉と四七四番の間にあるものとは何なのか、死刑執行を急がせるのは何故なのか。存在を隠してこそ存在できる人間の慟哭は音無き悲鳴となり、読後タイトルは哀しみの残響となり心に深いシミを遺す。苦しくも抱きしめたくなる人の原点を問う傑作。2021/11/27
星落秋風五丈原
26
確かに心情を描いているのだけれどなぜ彼が人を殺すようになったのか、自称姉が彼をどう思っているのかは全てが説明はされていなかったですね。恐ろしい本でした。2022/02/14
くさてる
18
12人を殺害した死刑囚と担当刑務官を中心に、男にひそむ心性の謎が少しずつ現れては消え、また分からなくなっていくスリリングな流れに引き寄せられました。といっても単純なサスペンスでも、観念的な純文学というわけでもない。凄惨な描写は時に生々しく、血の匂いがする。薄い本ですが、読みごたえは重かったです。2022/02/05
ROOM 237
12
韓国サスペンス新刊本。1ダースほどの大量殺人を犯した死刑囚と好奇心を抱く刑務官とのやり取りを描いたストーリーは、亡きキムギドク監督が書いたのかってぐらいのギリギリの行き場の無さと絶望感。真冬の海みたいにくらぁいけど、この暗さが韓国独特だなぁと味わう。飄々と大量殺人を犯す一方で、自身の体に小さな擦り傷が出来ただけで念入りに絆創膏を貼るという矛盾点を軸に展開。冒頭に「砕氷船が凍りついた海を渡って…」とあり、この死刑囚が抱える闇とトラウマとの共存的表現としても、ゆったり静けさ漂う雰囲気にもマッチしておりました。2021/11/13