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内容説明
藤井聡太氏は棋聖、王位、叡王、竜王、王将と立て続けに五冠を制覇し、五回の防衛戦を含めてタイトル戦十連勝という前人未到の記録を打ち立てた。公式戦で六連敗していた豊島九段にも圧勝を重ねて苦手意識を完全に払いのけた。もちろん、それまでも盤石の安定感だったが、変化といえば、以前に比べて持ち時間に対する意識が変わったことだろう。それまでは時間不足によって追い込まれることが多かった勝負が、一分将棋に入る前に一、二分時間を残すようになったのだ。わずかな時間ですが、読みの速度が尋常ではない藤井氏の場合、その一、二分が勝敗を左右する。さらに、どんな戦法に対しても逃げずに受け入れる姿勢が、弱点を作らず地力をつけることにつながっている。修正能力が高いため、同じ相手に一回は負けても、二回、三回と負けることはない。番勝負で圧倒的な強さを見せる所以だ。大勝負で次々に強豪を倒して実績を積み上げてきた経験によって、精神的にも落ち着きと風格が備わってきた。わずか二年間で人はこれほど成長できるのか、と驚くばかりだ。五冠という肩書だけではなく、高校生から将棋一筋の社会人となり、第一人者としての自覚が芽生えてきた、と著者は語る。人はいくつになっても成長できる。成長の機会は師匠や周囲の人間が用意できるものではなく、本人の意志と不断の努力によってもたらされる。藤井氏の場合、その意志と努力は「この上なく将棋が好き」「もっと強くなりたい」という気持ちに支えられている。単行本刊行時に無冠の七段だった藤井が五冠に成長する、その源泉の思考法に触れられる一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
70
師匠の杉本昌隆は、いまも現役の棋士です。50歳でC級からB級への昇級は、プロ棋士の世界では「奇跡」と注目されました。その原動力になったのは、弟子・藤井君の驚異的な躍進に刺激されたことは言うまでもありません。公式戦の「王将戦」予選で、師弟の初対決が実現しました。この時の師匠の気構え、姿勢に胸打たれました。読み終えて「この師匠あってこそ、天才棋士・藤井聡太が誕生した」ことを改めて思いました。2024/01/14
geki
6
杉本師匠が過去の経験から得たもの、藤井聡太という宝石から得たもの、弟子たちとのふれ合いから得たもの。謙虚であり、信念があり、たゆまぬ努力を続ける杉本師匠の数々の珠玉の言葉に胸を打たれます。同じ50代として、心強く励みになります。2023/02/05