内容説明
21世紀の世界は暴力に満ちている。はたしてこれは、「文明の衝突」なのか? 西洋とイスラムは対立するしかないのか? 本書では、ハンチントンやサンデルらの過誤を指摘し、現代世界を読みとく新たな枠組みを提示する。アイデンティティは与えられたものではなく、理性によって「選択できる」のだ。
目次
プロローグ
まえがき
第1章 幻想の暴力
第2章 アイデンティティを理解する
第3章 文明による閉じ込め
第4章 宗教的帰属とイスラム教徒の歴史
第5章 西洋と反西洋
第6章 文化と囚われ
第7章 グローバル化と庶民の声
第8章 多文化主義と自由
第9章 考える自由
監訳者解説
原注
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テツ
28
現代人が安易に創り上げるアイデンティティへの警鐘。アイデンティティとは生まれた国だとか人種だとか宗教だとかそんなもの一つを拠り所にして形成されるものではない筈。自分のアイデンティティも他人のそれも単純に考えて単純に帰属する(させる)ことの危険さ。本来様々な属性にモアレを起こすように重なっているのが人間であるのに簡単にラベリング出来る筈がない。個人の色を怠惰にならずにセンシティブに感じることの出来る人間でありたい。2018/05/18
ばんだねいっぺい
24
アイデンティファイすることの政治性、そしてそこから生起する暴力との関係を説いてくれる。中東について、もっと知りたいと思った。2023/11/09
Hiroki Nishiyama
11
アイデンティティは複数あり、その中から論理的に優先順位をつけることで人の選択は運命を一蹴し、自由になり得る。しかし、その優先順位の決定は、その時々の環境に左右されうるものである。大切なことはたくさん学べたが、一つ疑問が残る。人は何故、単一のアイデンティティに執着しやすいのだろうか?人の心は、考えを一にする他者を求め、こうすれば間違いないという後ろ盾を求め、常に安心感を求めているのだと思います。セン曰く、子どもには数多の選択肢を与え、単一の宗教に囚われない論理的な思考が自由への道だという。コメントへ続く。2012/06/19
GASHOW
8
「アイデンティティ意識は人びとを温かく迎える一方で、別の多くの人びとを拒絶しうるものである・・」仲間意識と敵対視はセットだ。暴力は生物の生存の手段だから、人間から暴力を切り離すことは難しい。2020/06/30
D.Okada
8
「運命は幻想である」という副題のついた本書のキーワードはアイデンティティの複数性。著者セン自身、本書で「アジア人であるのと同時に、インド国民でもあり、バングラデシュの祖先をもつベンガル人でもあり、アメリカもしくはイギリスの居住者でもあり、経済学者でもあれば、哲学もかじっているし…」と述べているように、アイデンティティは多面的なものである、というのがセンの理解である。したがってそれは、我々が自分自身で自由に「選択」するものでこのセンの主張は、「文明の衝突」論のハンチントンや、(続く)2012/03/28