内容説明
人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代――
ライト兄弟が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、
独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。
奇才・二宮忠八の、世界に先駆けた「飛行器」は夢を実現させるのか?
ひたすら空に憧れた忠八の波瀾の生涯を、
当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長篇。
解説・和田宏
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
100
二宮忠八という人が取り組んだ飛行器と彼が歩んだ人生、そして移りゆく日本と世界を描いた歴史小説。日本の飛行機といえば彼の名が思い浮かんだがそれ以上のことは知らなかった。幼少の頃から頭脳明晰で凧を作らせたらすごい腕を持っていた事、軍隊に入り看護卒として活躍、その後も薬の開発にも携わった事、他今まで知らなかった彼のことを知った。また明治という時代も日清・日露戦争などを背景に描かれている。飛行器のことが中心という先入観で読んだが研究というテーマは貫かれていたと感じた。2017/04/18
yoshida
83
日清戦争前夜の明治24年。世界に先駆けてプロペラ式飛行機の模型を飛ばした日本人がいた。ライト兄弟よりも12年先んじた偉業。しかも民間人ただ一人の研究によるものだった。その人物は二宮忠八。富裕な商家に生まれるも兄達の放蕩で没落。薬種商等を経て陸軍の調剤手となる。日清戦争当時から飛行機の有用性を感じ上申するも却下。エンジン研究費用の為に転じた大日本製薬を大きく成長させる。しかし時間は流れ海外の研究者が飛行機を開発する。先駆者の労苦を見る。後年、その研究を軍が認め顕彰し救いを見る。偉才の激動の生涯に感嘆する。2023/12/16
ともくん
78
ライト兄弟が、世界で初めて飛行機を飛ばした十数年前の明治期の日本。 そこに、"飛行器"研究に生命を賭けた男がいた。 男の名は、二宮忠八。 ひたすらに、空を飛ぶことに憧れ、懸命に駆け抜けた人生。 自分が夢見た、空飛ぶ器械。 忠八が今の時代に生きていたら、どんなことを思うのだろうか。2019/09/20
こなな
73
明治時代の物語。西南戦争、日清戦争、日露戦争が背景にある。マルチな才能を持ち飛行器に情熱をかけた二宮忠八、商家生まれであり薬業にも携わっていたため、薬業界の歴史をも垣間見ることができる大河小説である。道修町の薬業御三家といわれる大問屋は、武田長兵衛、田辺五兵衛、塩野義三郎と薬業界の英雄たちも勢揃い。忠八はライト兄弟が成功する20年も前に飛行原理に着想していた。先を越されてしまったのは、日本の国状の故だ。しかし日本は二宮忠八のことを小学校の教科書に書いてくれた。そのお陰でこの小説がある。とても熱い気持ちだ。2024/01/30
mondo
70
ライト兄弟が飛行機を飛ばす十数年前に航空機を考案していた日本人がいた、という紹介文を読んだだけで、興味を覚え、ページをめくる手が止まらなかった。終始、飛行器の開発の話かと思いきや、夢を追って資金作りのために入った製薬会社で活躍していく物語でもあった。夢を追い続けながら、その実現を阻んだ背景に勤勉で人情に厚いことを重んじる一方で、奇を衒う日本人の、日本社会の視野の狭さも浮き彫りにされる。また、日本が日清、日露戦争から大戦に巻き込まれていく歴史も興味深い。最後は、潔いシーンで終わり、ホッとした。これも傑作!2023/10/01