内容説明
森名幸子から見て、母の鏡子は完璧な会津婦人だった。江戸で生まれ育った母は教養高く、武芸にも秀でており、幸子の誇りで憧れだった。
薩長軍が城下に迫り、白装束を差し出して幸子に自害を迫った時も、母の仮面が崩れる事はなかった。
しかし、自害の直前に老僕が差し出した一通の手紙が、母の、そして幸子の運命を大きく変えた。
手紙から視線を外し、再び幸子を見た母は、いつもの母とは違うものに変わってしまっていた。その視線を見て、幸子は悟った。
――母は、この美しい人は、いまこの瞬間、はじめて私を「見た」のだ、と。
薩摩藩士の青年・岡元伊織は昌平坂学問所で学ぶ俊才であったが、攘夷に沸く学友のように新たな世への期待を抱ききれずにいた。
そんな中、伊織は安政の大地震の際に燃え盛る江戸の町でひとりさ迷い歩く、美しい少女と出会う。あやかしのような彼女は聞いた。
「このくには、終わるの?」と。伊織は悟った。「彼女は自分と同じこの世に馴染めぬいきものである」と。
それが、伊織の運命を揺るがす青垣鏡子という女との出会いであった。魂から惹かれあう二人だが、幕末という「世界の終わり」は着実に近づいていて――。
この世界で、ともに生きられない。だから、あなたとここで死にたい。
稀代のストーリーテラーが放つ、幕末悲劇、いま開幕。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
51
切なくなってしまいました。心が空虚な鏡子と、ただひとりその想いを理解できる伊織の出会いにじんわりきてしまいました。会津と薩摩。『ロミオとジュリエット』を連想しますね。ラスト1行まで引きつけられます。面白かったです。2023/03/17
まーみーよー
23
いまいち最後まで入り込めなかった。須賀さんの他の作品が良く期待しすぎたのもあるが。表紙が好みではなかったり、細かいところで乗り切れなかった。幕末の会津藩の鏡子と、薩摩藩の伊織となるとそれだけで悲恋物語過ぎるところ、二人がともに空虚な理由がぼんやりとしていて共感まで至らず。ところどころでファンタジーなのか歴史小説なのか良くわからなくなるところがあった。2024/05/15
星々
20
解説より−幕末の戊辰戦争で旧幕府側についた会津藩は、薩摩藩・土佐藩を中心とする明治新政府軍を前にして、逃げずに戦って完膚なきまでに負けた。− 歴史をより詳しく学んでから読むと、もっと興味深く読めたなと。 読後は切なくなってしまう。調べてみると、ファンタジーかと思いきや登場人物は実在した方ばかりで、少し幕末に詳しくなった。2025/06/28
tomo
14
☆☆☆☆ 4.4 薩摩や会津の方言に苦労しながら、全然知らなかった新撰組の創始者、清河八郎の素性が垣間見えたし、長州と会津の軋轢についても少しは分かった。(幕末についての知識不足を痛感。) 若い頃は感じなかったと思いますが、見事に死ぬために今を生きるという気持ちがわかる気がする。少ーしだけ。2023/08/07
ツバサ
12
性別、年齢、立場、違う部分はあるが、魂は同じ男女が時代に振り回されて生きながらに苦しんでいるが、最後に下した決断は必然だったのかなと。2022/11/25
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