内容説明
巨大化学企業を退職した若い男が、過去に愛した女性の甘い追憶と暗い呪詛を交えて語る現代社会への深い絶望。白い錠剤を前に語られる新たな予言の書。世界で大きな反響を呼んだベストセラー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふみあき
54
『服従』に続いてウエルベック2冊目。恐ろしく冷笑的で頽廃的で、胸が締め付けられるような切ないラブロマンス。主人公フロランは「西洋は口唇期に後退した」と慨嘆するが、わが国も似たようなもので、テレビでは芸能人の食事風景を映した番組ばかりやっている。己の欲望を掣肘する関係を忌避する心性、「個人の自由という幻想」は罪深いと思うし、私と同世代以下の日本人にも多くの犠牲者がいるだろう。ボードレールとネルヴァルが死んだ「容易な年齢ではない」46歳に私もなってしまったが、何とか生き延びたい。表紙絵は単行本の方が絶対いい。2022/11/05
Shun
35
初読みフランス作家。現代フランスの農業関係者の絶望や世間と距離を置く者等の言及を見ると社会派小説といった作品ですが、独白する一人の男の人生を辿る大河小説のようでもあります。好みもありましょうが物語への没入は容易く男の独白の深みにはまりそうになる小説。男は何か痛みを抱えている。それはタイトルのセロトニン、そして語り初めに記述された白く指先で割ることのできる小粒の錠剤からも想像がつく。その後の語りは全て男の過去、女性関係やニコチンに依存し破滅に近づく己のこと。最終章は作家の技巧に感嘆、小説的には理想的な結末。2022/09/25
塩崎ツトム
18
仏語でクソを「メルド」と言うのを初めて知ったのは映画だったか村上春樹だったか。とにかくフランスは国土も人もメルドである。ついでにEUもメルドであり、自由貿易やグローバリズムもメルドである。というか世間がメルドじゃなかった時はなかったのであり、来世に期待するようにヒトはクソガキを産んできて、なんとか社会のメルド性に蓋をしてきたのだけど、個人主義もメルドである。ついでにモンサントもメルドであり、どこの国の農水省も総じてメルドである。(つづく)2022/11/28
ふみふみ
15
ペシミストでニヒリストな中年男性が主人公の自滅回想録で私小説的な色合いが濃く、読んでてなんだか太宰治と村上春樹を合体させたような印象を持ちました。著者のスタイルはこの主人公キャラに時事問題、社会批判を交えて物語が進むのですが、本書は後者の部分がグローバリズムに潰されていくフランス酪農家のエピソードぐらいしかなく、感情移入できるのもその箇所のみといった具合です。翻訳は素晴らしいのですが、解説は翻訳者の思い込み、誘導が散見されるので要注意。2023/04/25
rou
14
まだ途中だが、忘れないうちに。新しく出たばかりの白水社『ウエルベック発言集』において、ウエルベックは〈私が政治的に正しくなって、それで何が得られるのでしょう。〉と語っている。彼の農業への、人間への、世界への絶望はある意味人間として「正しい」。だが、ウェルベックの政治や社会に対する発言の目的には、絶対的な正しさは宿らない。ウェルベックの語り手の自我のありようはさしずめエントロピーの増大、生存の選択の結果である。侵食してくる他者や環境に、彼は常に破壊される。だから、彼は先回りし、失踪したり浮気したりする。 2022/11/19
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