内容説明
南京に住む憂愁の貴公子が、北国の冷艶にして水中の妖魔たる人魚に激しい恋をする「人魚の嘆き」、妖麗な魔術師に魅せられ欲望のままに半羊神と化す「魔術師」。大正期の耽美的な幻想譚二編。水島爾保布による美麗な挿画二十余点、カラー口絵二葉を完全収載。
〈註解〉明里千章〈解説〉中井英夫/前田恭二「水島爾保布小伝」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
111
著者初期(大正六年)の二編。題名と表紙が醸し出すように幻想小説であり、古風な文体で綴られる寓話めいた奇想のストーリー、さらに水島爾保布による妖美な挿画と相まって好みの風味の作品だった。元々、既刊の二篇を抜き出して改めて挿絵本として出されたものらしく、なるほどこちらは挿画と文が誘う世界に耽溺するものなのだ。どちらの話も現実のようで、僅かな隙間から非現実的な人魚や魔術師が入り込んで来たかのよう。それらが違和感なく溶け込むのはすべてを呑み込む夢の中に居るからだろうか。結末を迎えてもその存在が仄かに残されていた。2022/10/06
アキ
102
大正六年(1917)に発表された「人魚の嘆き」「魔術師」を当時の水島爾保布による挿画を再現した文庫。オスカー・ワイルド「サロメ」に似た線画と退廃的な雰囲気に凝った文章。「作者が彫心鏤骨の苦しみをもって書いたものであり、当時の文壇では評判の高かった作品ではあるが、今読んでみると、苦心して書いたものが必ずしも寿命が長いとは限らないことを発見する」昭和三年の谷崎の言葉。むしろ、作中にも出てくる「ポオの恐怖と狂想と神秘との巧緻な糸で織りなされた妖しい物語」であり、その時代を表す表現を生みだしたことが理解できる。2022/10/24
榊原 香織
73
大正の耽美 あからさまな西欧礼拝にびっくりした。 ”魔術師”は意外にも日本の探偵小説の元(推理じゃないのに?) 乱歩と横溝にどっぷり影響。 挿絵、水島爾保布(にほふ)本名だそうでまたビックリ2022/12/22
Vakira
58
ビアズリーを連想させる水島爾保布の描く人魚の艶めかしい表紙絵と谷崎潤一郎の小説。ナイスバディ。嬉しいのは表紙だけでなく数ページ毎に挿入させる挿絵も水島爾保布。水嶋爾保布さんの挿絵目当てに読みました。1917年の作品。もう105年も前の作品。妖美を表す当時の単語が盛りだくさん。注釈と照らし合わせながら読みました。当時の単語知れてうれしい。そして解説に前田恭二による「水島爾保布小伝」。水島さん、なかなかの変態でこれもまた嬉しい。2022/10/04
こうすけ
22
谷崎が大正時代に書いた短編2篇。幻想的な世界観を、めちゃくちゃ華麗な描写で見せる。技術的な作品なので、谷崎らしい変態さを求める人にはちょっと物足りないかも。挿絵が美しい。2023/05/15