内容説明
直木賞、山本周五郎賞はじめ、大佛次郎賞、中山義秀文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、島清恋愛文学賞を受賞など、あまたの文学賞を受賞した実力波作家が、書くことをテーマに、真正面から向きあった力作長編小説。昭和から、平成、令和へと生涯を通して、書くことへの飢えを希求した一人の男の魂の変遷を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タピオカ
23
初読みの作家さん。面白かった。野心を持って故郷を出て東京に出た相良と大庭。コピーライター、作詞家、小説家へ、書くことへの飽くなき希求を貫く相良と、風来坊で強がりな役者となった大庭。ふたりで夢を語った懐かしいプラザに久しぶりに訪れた相良と、想念の中の大庭の最後のシーンには胸が熱くなった。2023/03/03
hiromura
9
乙川優三郎さん、待ちに待った新作。いつもながら、どんどん読み進んでしまう。畳屋の息子が東京に出てコピーライターを目指し、叶え、やがては小説を書くようになる。若い頃にグアム島でカレーのコマーシャルの仕事を一緒にした神定トオルの訃報、西城秀樹を思い出した。2022/12/07
ジュール
8
相変わらずの乙川さんの硬質な文体には惹かれる。ベビーブーマーの世代の相良、田舎の畳職人の家を嫌い、コピーライターになる為東京に。同じく役者になる野望を持った大沢も。同郷の寺の跡継ぎの保科と反発しながら交流する。相良はコピーライターから作詞家へ。結婚もするが妻との仲は冷えていく。晩年は作家に転身。乙川さんの作品は翻訳家や装幀家にしろ職人を描くのが上手い。ただこの作品は職人の辛苦の部分がやや弱くいつのまにか主人公が成功している。そこが残念。ただ最後の保科が亡くなり実家仕舞いの辺りは胸に響く。2022/12/14
ガブリエル
5
乙川さんの洗練された文章は相変わらず心地いい。 昭和〜平成〜令和を生きた男の一生も、作者にかかるとこれほどまでにスタイリッシュで軽快になるから不思議。 人生って、作中で何度か描かれる「中央フリーウェイ」の一節のように滑走路のような道を車で飛ばしているようなものなのかもしれないなと思う。 過ぎてしまえばあっという間。 失敗も、挫折も、苦労も、風に飛ばされて後方に過ぎ去って行き、最後は夜空へと旅立つ‥‥みたいな。 そんな感傷に浸った読後。2022/11/15
としき
3
初めて読む作者!初めて耳にしたタイトル!潜熱とは内に潜んで表面に出てこない熱。作者の自叙伝なのか?言葉を大事に大事にしながら、コピーライターから作詞家、小説家と這い上がってい行く人生を描いている。潜熱の意味通り、簡単に言葉を綴っていくのではなく、自分中で何回も何回も言葉を咀嚼し、思いのたけも何度も何度も繰り返した詩であり、唄であり、小説を綴ってきた半生。ひとの心に訴えるには、そうした表にはでてこない、内なる情熱がないと伝わらない!これは小説だけど、読んでいる時は歌詞を読んでいるような錯覚に陥った。2023/02/08