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内容説明
謎だらけのポストモダン小説の先駆『同時代ゲーム』はなぜ書かれたのか。自伝的要素の強い『懐かしい年への手紙』に登場するギー兄さん、『燃えあがる緑の木』の新しいギー兄さんは、なぜ「ギー」なのか。大江健三郎の全小説を精読し、柳田国男の影響を確信した著者は、大江と柳田の深い関係を探っていく。しかし、大江の謎は柳田のみならず、『万延元年のフットボール』と島崎藤村『夜明け前』との類似点へと行き着き、いつしか不思議な親和性を持つ文学者のつながりは平田篤胤へと辿りつく。これまで海外文学の影響下において読み解かれてきた大江健三郎文学に、深く根を下ろした日本文学の伝統とは一体何か。大江研究の第一人者が読み解く、知的好奇心に満ちた快著!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こまり
29
難しかったがとても面白い読み物だった。「大江健三郎全小説」の解説執筆をした著者が大胆な仮説を立てそれを丹念に根拠付けていく作業は膨大な参考文献からみても気が遠くなる。柳田国男、島崎藤村、平田篤胤に相当な影響を受けたのではないかという筆者の考え方がとても興味深かった。大江健三郎を中心に多くの作家たちのことも語られていて、其々が影響しあっていることがよくわかる。大江健三郎の本を読んだら、またこの本を読みたくなると思う。2023/01/29
hasegawa noboru
18
<大江健三郎という巨大な作家の読書歴と引用を注意深く見ていけば><優に百年はかかる仕事となるかもしれない。それでもまず、時代を超えるひと筋の精神で繋がる三人について、知る必要があった。><柳田国男、島崎藤村、平田篤胤。><大江はこの三人をずっと、自身の創作を拡げる想像力の種、ジャンプ台とした>と結論づけるまでのその分析過程は、言われてみればのコロンブスの卵的なところが多々あって、圧倒的にスリリングな読書であった。後期大江作品に繰り返し登場するギ―兄さんは誰に由来するか。柳田国男!。<その復古神道が、大東亜2023/01/03
かふ
17
二部構成で第一部で柳田民族学と大江健三郎作品の関係について述べている。「ギー兄さん」が柳田国男であるというのは面白い。ただ第二部になると島崎藤村から平田篤胤の国家神道の話になってオカルト的になってくる。それは根源性を求めるあまり何でも平田国学に結びつけて思考する悪い思考パターンだ。大江健三郎の文学は根源性を求めるよりも外部に開かれている文学なのだ。何より大江健三郎自身が哲学や宗教ではなく文学(フィクション)という自覚があった。根源性の中に閉じこもっている作家ではないはずだ。2023/05/02
belier
4
著者は新聞の文芸記者として大江健三郎を長らく取材してきた。なのだが秘話などなく、大江がその影響をほとんど語ることがなかった柳田国男、島崎藤村、平田篤胤がどれほど深く大江文学に影響しているかという大胆な仮説を提示する。大胆すぎて著者の妄想じゃないかと思ったりするが、根拠を逐一示しているからすごい。評論の面白さとはこういうことかと感じ入った。大江を論ずるのに誰もが飛びつくだろう外国の作家にほとんど触れないのも、かなり独自性があると思う。柳田、藤村の魅力も伝えてくれている。こういう読みもあるのかと教えられた。2023/01/09
hidehi
2
これは今まで読んだ大江健三郎論の中で一番納得できた一冊。なんか本人のインタビューでは洋モノの思想が出てくるし、仏文科だし、後期の小説で主人公が読んでるのはダンテとかブレイクとかな割に、物語にはもの凄い日本らしい湿気と土臭さがあるのが気になっていたのだが、この本を読んで得心しました。世代的には全然大江の衝撃などはなく、文庫に作品がいっぱい入っているので遅れて読みだしたのだが、結果、長江古義人シリーズだけですね、私に面白く読めるのは。日本人の作家でこれほど時期によって作風の違う作家も珍しい気がする。2023/01/04