内容説明
失読症のミステリ作家や楽譜が読めなくなったピアニストは、どう「見る」ようになったのか。片目の視力を失った著者自身の経験もふまえ、目と脳の、そして想像力の、奇妙で驚くべき働きを描く。卓越した洞察力と患者への温かな視線が際立つ、傑作医学エッセイ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
だろうぇい
17
成人してから、両眼視・立体視が全くできていないと検査で指摘された。本書の事例の女性も語っているが、矯正レンズを使い始めてから暫く、近いものが自分に迫ってくるように見える衝撃、物の凹凸が「直感的に」分かる驚きで、世界が新鮮で美しく見えたことを思い出した。なぜか色彩もそれまでより鮮やかに感じられるようになった。楽譜が読めなくなり、後に物が識別できなくなっていく音楽家の事例が印象的で、「世界を知覚するとはどういうことなのか」考えてしまう。2016/05/22
REI
9
図書館本。いつもながら、サックス先生の患者を診る目が優しさに満ちている。それから、自身の体験談が印象深い。眼科に勤めていたことがあるので、いろいろな患者の訴えを思い出した。視野が欠けていく不安。失明への恐怖。また、主観的な見え方は他人のそれとは普通比較できないということ。検査をして初めて異常と知り、驚く患者もかなりいた。自分の当たり前の世界が、他人とは違っている可能性の方が高いということを改めて考える。特に、感じ方の程度の差については。こういうことを心に留めて、様々な人への接し方も考えていきたい。2017/06/08
橘
8
病気や症例の報告が、その人となりを紹介する伝記を思わせる。人間と向き合うサックス医師の温かい眼差しと、最新であろうとする医学の融合。2017/05/28
北条ひかり
7
5時間50分(名古屋ライトハウス名古屋盲人情報文化センターと音訳者さんに感謝) 視覚障害者であるにもかかわらず、この分野の本を全く読まなかったことを深く後悔している。失われた視覚の補完として、従来の視覚的認識を用いるのか、今後は主に聴覚など他の手法を用いるのか、暗中模索でやってきた。もっと早くこの本を読んでいれば、僕には僕なりの手法を採用してよかったことを自信を持って選択できたのに。幸い、音訳者さんがたくさんの視覚障害と認知に関する本を音訳してくれている。僕は無我夢中で学び、自分なりの手法を確立したい。2015/09/13
tom
7
サックス博士の初読み。面白そう、面白いだろうなと思いながら、どういうわけか完読経験がなかった。結果としてとても面白いし、読みやすい本だった。この本は、いろいろな理由から視力に障害を負った人たちの「見え方」についてのレポート。見ることを代替したり補完するための大脳の働きはすごい。他人の顔を見るという当たり前のことについても、人によって見ているものが違うことなどなど、新鮮な驚きがたくさんある。良書。2012/04/24