内容説明
海の上に、陸蒸気を走らせる! 明治の初めに、新政府の肝煎りで、日本初の鉄道が新橋~横浜間に敷かれることになった。そのうち芝~品川間は、なんと海上を走るというのだ。この「築堤」部分の難工事を請け負ったのが、本書の主人公である芝田町の土木請負人・平野屋弥市である。勝海舟から亜米利加で見た蒸気車の話を聞き、この国に蒸気車が走る日を夢見ていた弥市は、工事への参加をいち早く表明する。与えられた時間はたった二年余り。弥市は、土木工事を生業とする仕事仲間や、このプロジェクト・チームを事実上率いている官僚の井上勝、そしてイギリスからやってきた技師エドモンド・モレルとともに、前代未聞の難工事に立ち向かっていく。来たる2022年10月14日は、新橋~横浜間の鉄道開業150年にあたる記念すべき日。この日を前に刊行される本書は、至難のプロジェクトに挑んだ男たちの熱き物語であり、近代化に向けて第一歩を踏み出した頃の日本を、庶民の目で見た記録でもある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
133
東京駅前には井上勝の銅像がそびえ、横浜外国人墓地のモレルの墓にJR関係者が献花した。150年前に日本初の鉄道を建設したのは彼らとされているが、その下で実際の工事に携わった多くの無名の人びとがいたのだ。勝麟太郎から聞いた西洋の鉄道に若い頃から憧れていた土木請負人の平野屋弥市は、維新後に井上やモレルと関わって鉄道敷設の難工事に挑む。文明開化期とはいえ人の心は江戸のままであり、政府内の反対者や仲間との衝突、技術の未熟さに悩みながら築堤を完成させた。誇りある仕事に生涯をかけた男の爽快な生き様が、読者を痺れさせる。2022/10/17
のぶ
91
日本に初めての鉄道を通すために立ち向かった男たちの物語。話は江戸幕府、安政の時代に始まる。ペリーが来航し開国が迫られた。主人公は土木請負人の平野屋弥市。時代は明治に入り、日本にも鉄道を通すことが決まり新橋~横浜間に敷かれることになった。そのうち芝~品川間は、なんと海上を走るという難工事になる。与えられた時間はたった二年余り。当時の技術でこれだけの事をよくなし得たと思う。それを成し遂げたのが弥市の鉄道建設に対する情熱。読んでいて熱く伝わって来る。結果の見えている話だがプロジェクトに向かう物語は良い。2022/09/30
ゆみねこ
76
平野屋弥市が請け負った芝〜品川間の海上を陸蒸気を走らせるための「築堤」部分の土木工事。誰も見たことのない蒸気車を走らせるため難工事に立ち向かう。わずか2年で成し遂げた大事業、面白かった。2023/08/23
Rosemary*
33
昨年は、鉄道開業150年だったんですね。蒸気機関車ではなく、それが走る鉄路を敷くところにフォーカスした作品、参考文書も沢山あり実在の方々も登場しています。機械に頼る事なく、人力で海の上に堤を築く、並大抵の苦労では成し遂げなかった事でしょう。其々の立場から男たちの矜持が渦巻く面白い作品でした。読み終わり、改めて最初を読むとなお一層感慨深い。2023/06/24
ふう
31
新橋〜横浜の陸蒸気に心血を注いだ男たち。台場の経験を買われて築堤の土木工事を任された弥市の目線で描かれた、明治初頭のドラマ。勝麟太郎、井上勝、そして志半ばで病に倒れたモレル。熱いドラマだった。2023/01/08