内容説明
司馬遷は生き恥さらした男である――。宮刑に処せられ、絶望の中で「歴史を書くこと」に向き合った司馬遷。「史記」の構造を読み解きながら、個人と個人のつながりに着目して歴史を読み解いた司馬遷の思想を明らかにする。武田泰淳の第一著作にして代表作を、初版以来、長らく収録されてこなかった「結語」も含め、オリジナルに近い形で刊行する。〈解説〉中野重治・竹内好
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
19
書くということの姿勢を言っているのだと思うが、司馬遷が腐刑(男性器を切除される)にあっても正しい歴史(『史記』)を書こうとしたのは、李陵の捕虜事件と父親屈辱があったためだといい、友人の任安(じんあん)に宛てた手紙はそのことを説明している記録で、司馬遷の書くことへの意志が強烈に伺えるとのこと。それは武田泰淳の歴史観にも影響を与えた。歴史じゃなくても書くことの姿勢について、汚辱塗れの英雄にも詩心があったとする『史記』の魅力なのかもしれない。2025/04/17
フリウリ
6
後藤明生「ああ胸が痛い」からの派生、再読。講談社文庫版。●腐刑、宮刑●3人の兄弟が次々と死をもって記録を守る、歴史家のきびしさ●政治的人間は世界の中心となる「十二本紀」、政治的人間は分裂する集団となる「三十世家」、政治的人間は独立する個人となる「七十列伝」●世家の並列状態●史記的世界の絶対的空間的持続●司馬遷は「天道非なり」とみる、正しく清い者よりも悪辣な者のほうが栄達を得る世界●暗示的な逸話で人間を語る飛躍的方法●列伝における「客」の働き 92023/03/18
まどの一哉
3
この著作が刊行された時武田泰淳は31歳だが、良い意味で筆の若さがあって、元気で活力溢れる文体が心地よい。英雄豪傑の活躍する世界に飛び込んで行く面白さがある。 もちろん「史記」は単なる英雄豪傑譚ではなく、始皇帝・項羽・劉邦など国を治める人物の怒りや悲しみ・迷いもあり、その周辺を彩る人物には文人も多く、敗れ去る者、追われる者も登場。「列伝」の中には世を捨てて隠遁する人物も描かれている。2023/02/14
Shinya Fukuda
2
四回も版を重ねている。最初に書かれたのは戦前だ。作家には他者に仮託して自己を語る人がいる。司馬遷も武田もその点で共通していると思う。構成は司馬遷の生涯が語られる第一章、史記そのものが語られる第二章。本紀、世家の謂わば本流もよいが断然列伝が面白い。特に英雄豪傑列伝が面白い。個々の英雄について詳述されることはないから詳しく知りたくなる。匈奴問題は今の米中関係を思わせる。もちろん匈奴はアメリカだ。注釈は詳しいが一々読んでいると面白さが半減すると思ったので一気に読んでから注釈を先に読んで本文に戻る読み方をした。2022/12/29
ishii.mg
1
史記という古代中国の歴史書がどのようにして生まれたのか。短い伝記として最初に書かれる。そのあとは史記の解読である。本紀、世家、列伝という構造の分析はみごと。そしてこの本の執筆は日中戦争日米戦争の真っただ中であったこと、日本は万世一系思想の他に語ることも不自由な時代である。中国の皇統はどんどん変わる、一系ではない。万世一系などという神話は冷徹な歴史のなかで存在しない、ということを泰淳は昭和18年に出版している。日本だけが特別なことがあろうか、と言外にあらわしている。2025/08/03
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