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内容説明
南宋末、フビライ率いるモンゴル軍が南下し、王朝は危殆に瀕していた。政治の中枢は腐敗と混乱のなかにあったが、ひとりの秀才が敢然と挙兵し、防禦にあたる。文天祥その人である。だが大勢に利はなく、あえなく囚われの身となり、その間に宋は三百年の歴史に幕を下ろすこととなる。天祥は、フビライから宰相就任要請があるもこれを固辞。五言古詩「正気の歌」を遺してついに刑場に果てる――。反時代的なまでに儒教道徳に忠実で、純なる人間性を貫いた生涯。それは、人間のひとつの極限をわれわれに突きつける。宋代史研究の泰斗が厚い考証を基に天祥の実像を描いた名著。
目次
一 栄光/水の都臨安 科挙の成り立ち 文天祥の登場 直言天子を動かす 晴れの日 父の急逝 栄冠を戴きて/二 風雲/江西の人脈 学びの明け暮れ 蒙古の嵐 血気の青年 賈似道の専横 文山にて/三 攻防/国境の城 襄陽の守り 帝王フビライ 戦いの火ぶた 孤立無援 術中に陥る 新兵器あらわる/四 落日/元軍の総攻撃 丁家洲の戦い 臨安危うし 賈似道の末路/五 気概/勤王の旗あげ 国都を守って 単身敵地へ 囚われの身 生か死か/六 激流/逃亡計画 虎口を逃れて 真州にて 一難去ってまた一難 揚州のうちそと 風前のともしび/七 亡国/フビライの勝利 流転 戦い利あらず 厓山 南宋の末路/八 朔風/牢獄の人 北への旅 男子ここにあり フビライとの対決 最後のとき 正気の歌/おわりに/文天祥の評価 中国人と文天祥 日本人と文天祥/後記/解説(小島 毅)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えちぜんや よーた
83
浅学にしてこの本を読んで初めて文天祥の名前を知った。戦前の学校では救国の英雄として、漢文の授業で必ず登場するくらいの有名な人物だったらしい。現代風に言えば、文天祥は銀河英雄伝説に登場する自由惑星同盟のヤン・ウェンリーに似ているかもしれない。文天祥は科挙の首席合格者として、ヤンは民主主義の軍人として最後まで亡国に仕えて、ともに二君にまみえなかったという点で。中国の王朝が南宋から元に代わる時代のことを知らなくても、銀英伝を知っていれば何となく話の流れが分かるような気がする。2022/08/21
ようはん
19
南宋末期を描いた田中芳樹の「海嘯」でも感じた事であるが、とにかく南宋末期の人臣達の仲の悪さが目立つ。特に本書の主役である文天祥の場合、民衆には人気はあったが賈似道のような奸臣や陳宜中らのような国難に逃げ腰だった人臣はもとより張世傑や李庭芝のような同じ徹底抗戦した忠臣にですら良く思われておらず人間関係が特に悪いのが読んでいて最も強く感じた点。高潔な忠臣であるのは読んでて間違いないが、その高潔故に柔軟な処世術には欠けて周囲との軋轢を生んでしまったのだろうかと思う。2022/05/27
さとうしん
16
文天祥の詩と生涯で辿る南宋末期の社会・政治と宋元の攻防。小説のような筆致が気になるが、とにかく面白い。図版に使用されている写真はいつの頃のものだろうか。今となってはこれ自体が資料的価値を帯びている。2022/05/14
ロビン
14
13世紀南宋がフビライ率いるモンゴル帝国に敗れ滅亡した際、フビライ自らに謁見し恭順を勧められながらも、その節を死の時まで曲げることなく生きた士大夫・文天祥の非常に読み応えのある評伝。文天祥は科挙の首席合格者(状元)で、いわばエリート中のエリートであるために叩き上げの武将などからは嫌われ、南宋の危機にも協調できなかったのが惜しまれる。殆どの人間が保身を図り命惜しさに恭順する中、元軍からの決死の脱出行や数年にわたる投獄にも耐え抜いて、自身の信念に殉じた文天祥。儒教道徳がどうとかはよい。一人の人間として立派だ。2024/03/20
筑紫の國造
8
南宋末期、モンゴル軍の侵攻に抵抗し、最期まで降伏を拒んで処刑された宰相・文天祥の優れた評伝。賞賛に終始した伝記ではなく、人間としての文天祥がしっかりと描かれる。彼は科挙にトップで合格した秀才として、頑ななまでに古典的道徳に従って生きた。戦闘の中で一瞬の死を選ぶのではなく、宋王朝が滅びてなお数年間牢獄の中の苦痛を耐え忍び、最期は彼の名を不滅のものにする「正気の歌」を残して死に臨んだ様子は、著者のいう「中華文明のチャンピオン」という形容詞が相応しいように思う。「教養」の意味の一つもここにある気がする。2023/05/03
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