内容説明
患者の人生に同伴しその流れに連れ添い、そこに人の生きることの強さやせつなさや奥深さを見いだし、悶絶しながらもそれを言葉にしようと試みる。山陰地方のとある精神科病院の現場で、足掛け十五年の月日をかけて書きつづられた、珠玉の文集。
目次
はしがきにかえて ― 言葉にならない何か
微音、微温
こころのデジタル部分とアナログ部分
薬について語るときに我々の語ること
診断、していないのかもしれない
僕の精神科医前史
若い頃の思い出の断片
ゴジラ、ロック、精神科医
緩和ケアの風景
物語は僕の知らないところでそっと立ち上がる
高齢者と家族、死と再生、もしくは出口と入口
治療の残り香、治癒のその先
ある夫婦の記録
書評
1 トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』
2 トマス・ピンチョン『重力の虹』
3 ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』
4 リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』
5 小林章『フォントのふしぎ』
6 森山大道『昼の学校 夜の学校』
7 サイモン・シャーマ『風景と記憶』
8 村上春樹『夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです』
9 レイモンド・カーヴァー『ビギナーズ』
10 保坂和志『カンバセイション・ピース』
11 広井良典『コミュニティを問いなおす』
12 デヴィッド・フォスター・ウォレス『ヴィトゲンシュタインの箒』
13 W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Iwata Kentaro
16
献本御礼。これは傑作。是非一読をおすすめしたい。精神科の先生は作文上手が多いが普段から「言葉」を仕事の生業にしているからだろう。「読むという行為において起きるのは、誰か他人の物語と向き合うということだと思う」というパワーズの言葉どおり、読書と診療が一体化している筆者が紡ぎ出す言葉の選び方や文体のリズムが素晴らしい。頂いた本だからユルユル読もうかと甘く見ていたら、一気呵成に最後まで読んでしまった。読書のときは仕事を忘れたいので医療現場物は一般に苦手だし、多くは武勇伝でしんどいのだが、本書はその対極にある。2022/09/16