内容説明
何カ月も、何年も過ぎていったが、明日という日はやってこなかった――。スペイン語圏文学の名作『黄色い雨』の著者による集大成となる自選短篇集。
都市で、田舎で、辺境で、刻一刻と奪われ、それでも生きて、滅びてゆく人々の詩情――
世界の片隅への愛と共感が魂を震わせる珠玉の21篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
82
三部構成。13作品からなる第二部がよかった。スペイン内戦、鉱山、忘れられた土地の寂寥感。既読作を思い起こさせるものがいくつかあった。特に印象に残ったのは「行方不明者」。行方不明のおじの名前がアンヘルということもあり『狼たちの月』のラストと繋がっているように思えた。短篇でなく中篇、長篇で読んでみたいようなものも。第一部はブラック・ユーモアを感じる7作品。第三部は1作品のみ。2022/06/03
ヘラジカ
57
『黄色い雨』を読んだのはかれこれ10年近く前。細部はよく覚えていないものの、圧倒的な存在感を持った傑作だったことだけは記憶している。それ以来のリャマサーレスなので刊行前から非常に楽しみにしていた。起承転結がしっかりしたお手本のような短篇が多く「唸るような傑作」とまでの作品はないが、掌篇に至るまでどれもクオリティは非常に高い。テーマや作風ががらっと変わる後半は『黄色い雨』に通ずる、一種”荘厳さ”を感じさせる哀愁を帯びた作品も多かった。ちなみに『黄色い雨』に併録されていた短篇二篇も収録されている。2022/05/27
ちえ
40
数年前『無声映画のシーン』『黄色い雨』『狼たちの月』を読んだ後に購入していたリャマサーレスの短編集。前半のⅠ部はブラックユーモアが多く、内戦やその後の歴史の中で失われた故郷や帰れない過去への哀愁や寂寥感を感じるⅡ部が、より先に読んだ3冊に繋がる様に感じた。好みは「木の葉一枚動かんな」「マリオおじさんの数々の旅」「姿のない友人」「行方不明者」「尼僧たちのライラック」「暗闇の中の音楽」「夜の医者」「プリモウト村には誰ひとり戻ってこない」翻訳の木村榮一氏の長い後書き、良質な外国文学を多数読める幸せを思う。2025/03/23
フランソワーズ
29
締め切りが迫っても書けない小説家を主人公にした一編の中で書かれている「孤独、忘却、生と死にまつわる神秘」。それにスペイン内戦の傷痕_。これがリャマサーレス世界の主要テーマ。そしてそれを創作に昇華させる彼の表現は簡潔でありながらも、詩的。おかしさともの悲しさがないまぜになって、思わずため息がもれてしまうほどの読後感に包まれます。そしてやっぱり、わたしはリャマサーレスが大好き!(中でもお気に入りは、『遮断機のない踏切』、『木の葉一枚動かんな』、『暗闇の中の音楽』です)。→2022/08/26
のりまき
28
ちょっとしたことがどんどん自分を追い込んで行く『自滅的なドライバー』『夜間犯罪に対する刑の過重情状』のような作品が好きだ。『マリオおじさんの数々の旅』はせつなすぎる。『依頼された短篇』『遮断機のない踏切』も好みだな。2022/07/26