パープル・ハイビスカス

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パープル・ハイビスカス

  • ISBN:9784309208510

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内容説明

厳格な父に育てられた少女カンビリは、軍事クーデタに備えて預けられた叔母の家で、自由な価値観を知る。自己を肯定していく少女の鮮烈な物語。世界20か国以上で翻訳された傑作長篇。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

アキ

112
ナイジェリア生まれの著者が19歳でアメリカに渡り、初めて書いた作品の邦訳。すでに多くの文学賞を得ている著名な作家だが、生まれ育ったエヌグとナイジェリア大学のあるスッカを舞台とした家族の物語と共に、イギリスの植民地としてキリスト教が布教され、イボ語を野蛮な言語とみなし、伝統文化を異教で悪魔の手先とする父親の存在が、複雑な社会情勢を際立たせている象徴として描かれている。あまりにも意外な展開は、主人公の15歳のカンビリの心情の描写とともに、物語にぐいぐいと引き寄せられる力強さをも感じる。他の著作も読んでみよう。2022/08/02

ちゃちゃ

111
紫色のハイビスカス。それは「ありのままでいられる自由」を象徴する花。支配からの解放、抑圧から自由へ。そこに至るまでの大きな痛みと犠牲…。資産家で名士、熱心なカトリック信者である父親の重すぎる愛。15歳のカンビリは厳格な父の支配に苦しみ自らの言葉を持たない。混迷するナイジェリアの政治情勢を背景に、愛情豊かな叔母家族との交流や神父への恋を通し、羽化して大空へと羽ばたく美しい蝶のように、彼女は笑顔を取り戻し力強く自らの人生を歩み始める。その揺れ動く繊細な心が瑞々しい筆致で描かれ、ラストは希望の光を運んでくる。2022/10/31

どんぐり

102
長編デビュー作にして、アディーチェの翻訳小説8冊目。ナイジェリアで会社を経営する、狂信的なカトリック信者の父親と暮らす主人公の15歳の少女カンビリ、母親と17歳の兄の一家。信仰に反することを行うと、父親は怒りから祈祷書を投げたり、「我らの罪を赦したまえ。悪より救い出したまえ」と泣きながら娘の足に熱湯をかけて責める。信仰というドグマに囚われた父親の暴力が日常化し、家族のなかに緊張感が高まりやがて綻びが生じていく。これを狂気といわずして、なんというのだろう。この小説、図書館ではYAに分類されている。→2022/08/11

(C17H26O4)

85
DVの場面が辛くとても一度には読めなかった。15才の少女と17才の兄、その母親は常に父親の支配と暴力に対する緊張と恐怖に張り詰めている。しかし父親への愛情や尊敬の損なわれない典型的な構図がある。兄との僅かな年齢差による受け止め方や男女の違いからか、影響は妹の方がより顕著に思える。日常的に喉を詰まらせ言葉を出せず、トラウマで咳き込む姿は耐え難い。叔母家族との接触を機に状況が変化していく。兄妹が感情や思いをあらわにすることを知り、妹が自身の心からの笑い声を聞いた場面に嗚咽がもれた。タイトルに自由と希望を見る。2022/07/17

がらくたどん

69
初めてのアディーチェ。ナイジェリア出身の作家さんの邦訳されていなかったデビュー作。苦学の末の立身出世を果たし社会活動にも同胞支援にも熱心だが原理主義的なクリスチャンの父に心身ともに抑圧された家庭の軋みと崩壊と予想外の再生の兆しが、それでも消すことができない愛や喜びの記憶を交えながら物語性豊かに内気な少女の視線で描かれる。宣教師によって移植された「忌むべきもの」という安直なアフリカ文化観と妻子を導く強く正しい男というジェンダー役割の重圧が、結局父親自身の心を蝕み周囲を巻き込む暴走へと繋がる点が興味深い。 2022/06/21

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