内容説明
証書偽造が発覚、窮地に立たされた由比祐吉は破滅を逃れるため、恩義ある子爵の殺害を決意する。冷徹巧妙な殺人計画の進行を倒叙形式で描く「烙印」、横暴な父に苛められる母には秘密があった――子供の目を通して家庭の悲劇を描いた名篇「凧」、建設中のビルの鉄骨から転落した夫の死の真相が十九年後に明らかになる「不思議な母」、誘拐事件を扱った最後の推理短篇「螢」まで、戦後作を含む全八篇を収録。人物の性格や心理描写に優れた犯罪小説で探偵小説界に大きな足跡を残した巨匠、大下宇陀児の短篇傑作選。/【目次】烙印/爪/決闘街/情鬼/凧/不思議な母/危険なる姉妹/螢/〈エッセイ〉乱歩の脱皮/探偵小説の中の人間/解題/解説=伊吹亜門
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
90
表題作について。犯人の視点から描かれることで、読み手側が「どうやってバレるのか?」や「どこに綻びがあるのか?」が主体となっていて緊迫感が途切れませんでした。同時に、犯罪者の心理の揺れや、追い詰められていく過程にもうちょっと緊張感があっても良かったかな、と僭越ながら思いました。2025/12/05
くさてる
21
「偽悪病患者」が面白かったのでこちらも手に取りました。日本探偵小説創草期の作家の短編集。時代ならではの古さはもちろんあるものの、物語そのものの展開や人間心理の綾は時代を越えて面白い。後味がどこまでも悲しく苦しいけれど、それだけではない「情鬼」、この冒頭からどうしてこんな話にたどり着くのか、つくづく巧い「不思議な母」高橋葉介で漫画化してほしい「危険なる姉妹」が特に印象に残りました。2023/03/29
ちょん
17
読み進めにくかった!だけど面白くて続きが気になる、でも読みにくい(笑)短編集でしたが読み終わってからもう一度タイトルとあらすじを思い出していくと、どれも骨太いお話ばかりだったなと。ちょっと読みにくい、苦手だなと思う本にもチャレンジしていきたいと思う今日この頃です。2024/11/13
Urmnaf
14
前巻(偽悪病患者)よりもさらに魅力的な作品が多くなった全8篇の短編集。人間を描くことにこだわった変格の雄だけあって、探偵小説というより犯罪小説。結果、ちょっともの悲しい(結末が多い)。ある悪党と彼に助けられた女性の最後の行き違いが悲しい「情鬼」や、神童と呼ばれた少年が長じて道を外し母を裏切ろうとするが、すんでのところで真実を知るも自らは滅んでいく「凧」が印象に残る。中で「爪」なんかは、ちょっとパズラー臭がする倒叙モノだけど。2023/02/08
Kotaro Nagai
11
昭和3年~35年までの短編8編とエッセー2編を収録。「烙印」(昭和10年)は倒叙ミステリーで犯人の青年の心理を克明に描き傑作と思います。「爪」(昭和3年)も倒叙型の作品で大下作品の探偵・俵弁護士が後半登場。これも面白く読めた。「情鬼」(昭和10年)と「凧」(昭和11年)では謎解きよりは犯罪に至る心の動きの描写に重きを置いた作品でむしろ文学性を感じさせどちらも力作。戦後の「不思議な母」(昭和22年)は語り口の巧さに引き付けられる。エッセー2編では乱歩ら他のミステリー作家と作者の立ち位置が伺え興味深い。2024/12/08




