内容説明
刑務所のすぐ隣という、特殊な環境に立地する総合病院に勤務する腕の良い脳外科医の尾木敦也。彼は六年前に父母を強盗に殺害されて以来、精神的に不安定になり深刻なスランプに陥っていた。そんなある日、刑務所からクモ膜下出血で搬送されてきた「スペ患」の執刀を、院長命令で担当することになる。緊急開頭手術で命を救うことはできたものの、スペ患の正体が両親の命を奪った死刑囚・定永宗吾だったことを知り、尾木は懊悩と悔恨の迷路に彷徨い込む。そして定永は、逮捕と死刑の判決以降も自身の犯行を一貫して否認していた。術後のリハビリを通して、尾木と妹の看護師長・菜々穂は、定永という人間と六年前の事件に、改めて向き合うことになるのだが……。
憎き犯罪者と医師は、どう向き合えば良いのか? 犯罪者の生命は軽いのか、あるいは全ての人間と等しく重いものなのか? 事件の真実と真相はどこにあるのか? 死刑の意義、犯罪更生の理非、医師の倫理、それぞれの命題を通して生命の「軽重」の問いを突きつける、究極の医療ミステリ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
289
長岡 弘樹は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 設定に無理があるものの読ませましたが、この内容だったら中編ではなく、長編でもっと書き込んで欲しかったと思います。 先日、ネコメンタリーに登場した著者を拝見しましたが、本作にも微かに猫が登場しました。 https://www.nhk.jp/p/ts/Z52R515WW1/episode/te/QNX3MPVKJ4/ https://www.kadokawa.co.jp/product/322111000526/2022/08/24
いつでも母さん
189
タイトルがちょっと禍々しく作者は長岡さんだしと、少し構えつつ読み始める。脳外科医・尾木が緊急オペで救った患者は、6年前に尾木の実家で強盗の上に両親を殺した死刑囚・定永だった。医師であり被害者遺族でもある尾木の苦悩と、何故かリハビリに励むようになった定永の思いの先にある真実とは。看護師長の尾木の妹と6年前の事件をなぞり、見えた事は・・「何かある」と私の思考まで長岡さんに翻弄された。はぁ‥そう来たか。それでも、目の前の患者に全力を尽くす医師の矜持を見せつけられた感じだった。2022/08/18
しんたろー
150
長岡さんの新作は、医師を主役にしたサスペンスミステリの中編…両親を殺害された脳外科医・敦也と看護師・菜々穂を中心にして「医療従事者の矜持」をテーマにしている。心情を色濃く描いているので共感しながら読めたが、著者らしいミステリとしてのキレは弱い。短編集『白衣の嘘』でもそうだったが、長岡さんの病院ものは「惜しいなぁ」というのがファンとしては正直なところ。中編にしたことで、短編での切れ味が損なわれてしまったのかも知れない。辛口な感想になってしまったが、人間は丁寧に描かれているし、語り口も上手いので、今後も期待♬2022/10/05
モルク
144
6年前両親を殺害された脳外科医敦也と看護師長の妹菜々穂。病院の隣にある刑務所から緊急搬送されてきたのは事件の犯人死刑囚の定永だった。敦也が執刀した開頭手術で定永は命をとりとめリハビリとなるが…。菜々穂の恋人でもある理学療法士、定永の刑務官も絡み、定永の犯罪は彼の主張通り冤罪なのか。被害者家族の立場で執刀し主治医となるって現実的でないような。医師の倫理観を求めるにはきつすぎる。長岡さんは短編の警察ものの方が好き。でもなんのかんのいって、一気読みさせる筆力はさすが。2022/10/17
タイ子
128
隣に刑務所を位置する総合病院に、ある死刑囚が脳動脈瘤破裂で運ばれてきた。6年前に両親を殺害された事件後、仕事に身の入らない生活を送ってきた脳外科・尾木。院長の命で手術を執刀、後で知った両親殺害の犯人だと。尾木の妹も同病院のベテラン看護師。患者は犯行を否認し続けている。完全回復しないと死刑執行はされない。リハビリが始まり、目の前に憎き犯人。尾木の苦悩と医者としての倫理観がせめぎ合う。そして、もうひとつの真実、果たして死刑囚の患者は無実なのか。人間の心理を追い詰めていく医療ミステリ。Wの苦悩としておこうか。2022/08/14
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