内容説明
アメリカ50州をくまなく歩いたボーン・上田記念国際記者賞受賞記者による渾身のルポ。
ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルスなど中心地だけを観測しても見えてこない大国の実像とは。
各地に根を張って生きる人々の物語を通じて、現代のアメリカを描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
123
薬物依存/KKK/尊厳死/先住民/治安/原爆/性犯罪/核実験/移民/トランプ神話など、アメリカ社会の闇を探る渾身のルポである。危険を顧みず、著者は単身で現地を訪れ、当事者双方の意見を聞く。分断を、個人の憎悪や怒りに矮小化するのではなく、社会の問題として捉える:「露骨な差部発言には吐き気がするが、なぜか憎めない。可哀そうだと思う。なぜこんなに憎しみが結晶化するまでほっておかれたのか。むしろ罪深いのは「差別なんて存在しない」と涼しい顔をしている人たちではないか」。著者の行動力と使命感に、心から拍手を送りたい。2022/10/11
パトラッシュ
115
光が強い場所ほど影も濃い。世界一の超大国アメリカも同様だ。薬物中毒と放射能汚染、BLMに人種差別、尊厳死や性犯罪者、不法移民排斥など危険で重いテーマばかりだが、アメリカ人は問題に正面から対処しようとする。NYやハリウッドとは無縁の地方に生きる人びとは日本人のように本心を隠したり他者に忖度せず、自分の信じるところをさらけ出して生きたいように生きている。それは美点かもしれないが妥協を難しくするため、ついには考えの異なる人を見限った。「和を以て貴しと為し」とは正反対の土地で生きねばならない人に同情してしまった。2023/02/05
アキ
113
人口妊娠中絶、BLMとアメリカを分断する議論が激しさを増している。トランプは、移民をアメリカ人の敵とみなす見方を促進させた。著者はあえてリベラルな都市部ではなく、共和党地盤の赤いアメリカにフリーで飛び込み、リアルな発言を伝えている。ケンタッキー州のKKKには黒人や不法移民へのフラストレーションと大義があり、ペンシルバニア州ポッター郡のネオナチではカギ十字の籏を掲げる。オレゴン州では安楽死法にを取材した。BLMを発信したオークランドは、トランプが世界で最も危険な場所と言った。どこもタフで闇が深い場所ばかり。2022/11/07
たまきら
53
父が毎日新聞の記者だったため、基本毎日しか読まず50歳まで来ました。中でも最も楽しみにしてきたのは、科学部門の元村 有希子さんと、アメリカ専門と言っても過言ではない國枝すみれさんの記事です。読み友さんの感想のおかげで國枝さんがアメリカ本を書いたと知り、急いで取り寄せました。素晴らしい行動力が生む迫真の現場ルポ、弱者に寄り添う姿勢から立ち上る「アメリカ人」像…。10章すべて読みごたえがありますが、麻薬常習者や性犯罪者、差別主義者の懐に飛び込んだ取材は圧巻。今後の日本に通じるものがある内容だと感じました。2022/11/20
おかむら
32
毎日新聞の記者によるアメリカの辺境ルポ。楽しいアメリカ映画やドラマの世界からは見えてこない田舎町のリアル。著者の取材はエネルギッシュ。町山智浩の書くアメリカの方が好みではあるけど真っ直ぐ直球なこの感じも悪くないわ。1章ごとのテーマが興味深すぎて量が足りない。もっと深掘りしてほしい。オピオイド依存の町とか国境警備隊に怯える町とか。ラスト2章は著者のトランプ嫌いが鮮明でここまで言い切るのが潔いわ!2023/04/26