内容説明
今やロシアは世界史の真只中に怪物のような姿をのっそり現して来た――。千変万化するロシア国家の深奥にあって、多くの人を魅了する魂のロシアとは何か。プーシキンからドストイェフスキー、チェホフにいたる十九世紀の作家たちの精神を辿りつつ、「ロシア的なるもの」の本質に迫る。
〈巻末エッセイ〉江藤 淳〈解説〉佐藤 優
目 次
序
第一章 永遠のロシア
第二章 ロシアの十字架
第三章 モスコウの夜
第四章 幻影の都
第五章 プーシキン
第六章 レールモントフ
第七章 ゴーゴリ
第八章 ベリンスキー
第九章 チュチェフ
第十章 ゴンチャロフ
第十一章 トゥルゲーネフ
第十二章 トルストイ
第十三章 ドストイェフスキー
第十四章 チェホフ
後記(北洋社版)
後記
井筒先生の言語学概論 江藤 淳
解説 佐藤優
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
54
イスラム思想・東洋思想などの研究者井筒氏が「ロシア文学に触れた感激」を熱く語る。「詩人の魂の秘儀」「生命の野生的豊穣」「濠々と立ちこめる霧と悪夢の世界」など文学的表現も豊か。19世紀ロシアではチャイコフスキーやロシア五人組などの音楽家と申し合わせたかのように、錚々たる詩人や作家が登場する。その時代の勢いが伝わってくる。さらには作品の深層を探ることで謎めいた「ロシア的人間」の姿が立ち現れる。プーシキン等10人の作品を読みたくなる。ドストイェフスキーは再読したく、読みあぐねていたトルストイは読んでみたくなる。2023/09/08
かふ
20
ロシア人の終末論的救済論にロシア正教があるのだが、それはかつてロシアが韃靼人(タタール人)に支配され奴隷状態に置かれ、その記憶が虐げられた人々の救いとしての英雄待望論につながった。そしてイスラム勢力から彼らを解放したイワン雷帝はツァーリズムと教皇権力を一体化させた絶対君主となった。しかし庶民は相変わらず虐げられた人々のままなのだ。そしてピョートル大帝がモスクワ・ロシアを滅亡させて、西欧化を取り入れた近代化を進める。そのときに遷都されたのがサンクトペテルブルクなのだ。2022/09/16
紙狸
17
中公文庫新版で2022年に刊行。単行本は1953年2月刊行。紙狸にとって、井筒俊彦は『意識と本質』の著者として畏敬の対象。その井筒が若い頃こんなにロシア文学にいれこんでいたとは、と驚いた。19世紀のロシアの作家たちを根本的に動かしていた精神を追求する。「原初的自然性」、ロシアのキリスト教受容(メシア主義的使命感)、選民思想、都市、暴力―という原論が前半で、後半は作家論。収録された1988年の文で井筒はロシアが「哲学的人間論」を生むことへの期待を書いていた。戦争にはしった現今のロシアの振る舞いに胸が痛む。2024/08/11
塩崎ツトム
15
ロシア的精神を言語に写し取った偉人はだれか。大和魂とかアメリカ魂とかと違ってそれははっきりとわかっている。プーシキンである。そんなロシア文芸の花開いた19世紀の文豪たちから、現在まで続く、「ロシア」とは何者か?という問いを見つめる。19世紀の思想の芽生えが現代と直結しているというのもなんか変な気がするが、かの国はそうなっているんだから仕方ない。2025/01/26
Ex libris 毒餃子
12
今のロシアについての書き出しかと思いきや、冷戦開始直後のソ連についての書き出しで始まるロシア人を文学から分析する本。オブローモフ主義を理解しないといけないようだ。とりあえず、現代ロシア人の分析にもなりそうな本である。ничего 精神でいきましょう!2022/09/19