内容説明
「マスコミの偏向を信じるな」。インターネットの接触が増えるにつれて、高まる既存メディアへの不信。これまで不動の地位を築いてきた新聞、ラジオ、テレビに、近年は不要論まで語られる。視聴者に大きな影響を及ぼし、偏向報道で世論を操るという「負のイメージ」は、果たして真実なのか。本書では、マスメディアの「影響力」を科学的に分析。問題視される偏向報道、世論操作などの実態を解明し、SNS時代のメディアのあり方の検討を試みる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
75
「第三者効果」という言葉を初めて知った。「他者に対するメディアの影響力を過大視する傾向」のことらしい。要するに上から目線で自分より他人のほうが影響されるだろうと評価することなので、強いバイアスである。複数のメディアをこちらが選択できる現代においては、どれだけ正確な情報源に当たり、さらにそれを分析できる能力を持っていないといけない。不断の勉強が必要。2022/08/02
HANA
64
マスメディアというと基本放送自体を論じられる事が多いけど、本書はそれを受け取る側の意識や行動を論じた一冊。過去行われた実験等が手際よくまとめられてわかりやすく紹介されている。紹介されているのは年代順に「限定効果論」「第三者効果と敵対的メディア認知」「新しい協力効果論」「選好に基づく強化」等。インターネットでよく目にするのがエコーチェンバーとフィルターバブルだけど、マスコミの選別ではなくAIによるアルゴリズムによって起こされるというのは面白く思った。ただ著者はマスコミの無謬性を信じすぎているきらいがあるが。2022/07/29
あんさん
15
マスメディアによる世論への影響・効果について、数々の理論を紹介し、インターネットを含めメディアと社会の将来を考察、どちらかというと学術的なタッチの本。インターネットで表示される記事はパーソナライズされるのでどうしても偏ったものになる。「セレンディピティ」や「見るべき情報」を得られるよう世の批判も承知しながらもマスメディアと付き合っていこう。「すべての人が自分の見たい情報だけを見るようなれば、少なくとも民主主義は機能不全に陥り、結果として個人も不利益を被る」「マスメディアへのステレオタイプを鵜呑みにするな」2025/02/16
syuu0822
12
マスメディアは偏向しており、故に有害である…という風潮がネットにありますが、本書はそんな風潮に対して、改めてマスメディアとは何か?人々にどのような影響を与えるのか?を検証しています。マスメディアは確かに人々の物の見方に一定の影響は与えるが、かといってネットのみに頼るのは危険で、マスメディア+ネットの両方を総合的に利用して情報を収集するべきということかと思います。 最後の方で、記事を自動で作成する自然言語処理の話が出てきましたが、chatGPTの登場に驚いていた自分としては、新しい視点でした。良書。2023/03/16
おおかみ
11
まことしやかに跋扈するマスコミ不信は果たして根拠を有しているのか。何十年も前のステレオタイプが生き続け、増大しているのは薄々感じていたが、データ・サイエンスに基づいて最新のメディア環境を分析した一般書というのは少なかったのではないか。メディア論の歴史を追いながら、いかなる条件下でマスメディアが影響力を持つのかを明らかにし、(根拠のない)マスコミ不信が進んだ先の民主主義の危機を憂う。しかし偏った思考の人が本書のような精緻な研究に触れるとはそもそも思えず、明るい未来像はどうにも描けそうにない。2023/02/18