内容説明
蔵前の札差・大口屋文七の女房みつが、桜が満開の頃、出逢茶屋で役者と心中した。しかし文七は、女房の不貞を信じられず、無理に殺されたに違いないと自ら探索をはじめる。一方、大口屋の大旦那が、〈花魁・瀬川に惚れさせた男に自らの持っている貸し金の証文を全部くれてやる〉と、文七たち八人の分家の主に宣言したが……。妻を亡くした文七の無念とそれを支える瀬川との、まっしぐらな愛と心中事件の驚きの真相を描く著者渾身の傑作長篇。(解説・縄田一男)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
278
【遊廓部・課題】ため息の出るような装丁。恋女房に人気若手役者と心中されてしまった文七が、彼を公私共に支えた花魁・瀬川(お蝶)を落籍せて江戸の片隅で第二の人生を始めるが...。登場人物や会話の妙。時代モノらしい読みにくさがひとつもない。文七が女房おみつやお蝶を想う気持ち、おんなたちが彼を慕う気持ちが、しっとりと伝わってくる。文七とお蝶のむつみあい...女性読者なら思わず大好きな彼とのことを想ってしまうであろう秀逸さ。ラストはミステリー仕立てにもなっていて。ふたりには幸せになって欲しかった。2017/09/18
じいじ
107
江戸情緒がただよい、とても読み心地がいいです。主人公・蔵前の札差文七と女房みつとの夫婦愛、そして文七に惚れこむ人気花魁との恋情を描いた時代小説。謎を孕む女房の出逢い茶屋での心中事件が…。文七は終始一貫、女房を信じ「心中でない、殺されたのだ」と独自に探索を続けます。作中、夫婦の寝間での営み、花魁との閨での契りの描写は、下品ではなく濃密で艶っぽいです。緻密に描かれた女と男の情念と機微、そしてストーリ後半は、ミステリー仕立てで、とても味わい深い時代小説です。2018/06/29
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
78
山本兼一の遺作とも言える作品。江戸の札差、文七は女房と歌舞伎役者の心中事件を知る。裏切られたという気持ちと、恋する女房を信じたいという気持ちが複雑に交差する。果たして本当に心中事件であったのか?文七と吉原の花魁瀬川の艶っぽい話も並行して物語は進む。これまで山本兼一の作品は己の信じる道をひたすら進む人物を描いた一本筋の通った重厚な作品が多かったが、それに比べるとやや小粒で中途半端な印象は否定できない。だが、死を目前にした作者が最期にしたためた終章は重く悲しい。★★★+2016/10/11
優希
52
絆も幸せもその裏には不幸があると感じずにはいられませんでした。女房・みつが役者と心中。後に吉原の花魁・瀬川を身請けし、第二の人生を歩もうとします。今度こそ安寧な暮らしを願いましたが、一抹の寂しさがまとわりついているように感じました。夢幻と無常漂う作品です。2021/03/01
蒼
32
初読み作者作品にして絶筆作品。幸せに暮らす他人が許せず全てを奪い尽くす悪党と、お嬢様育ちで千両の小判なんて見飽きてると言い放つ浮気妻を許せなかった夫の巻き添えで、人気役者との心中に仕立てられて間違って殺されてしまった札差の妻おみつ。妻の裏切りを信じられずに、おみつは心中じゃない殺されたと謎を解こうとする夫文七が哀れ。せめて落籍した元花魁のお蝶と安寧な人生を送って欲しかったのに、ラストは哀しすぎた。どこか夢幻と無常が漂う世界観は作者の作風なのだろうか。【読メ エロ部】2020/03/19