内容説明
事故で記憶をなくした男の“再生”物語。
――見えないはずの物が見え、覚えているはずのことが消えて何が悪い? おれの記憶の中心には穴がある。それが〈現実〉というもので、掛け値なしの現実は何と異常で気味悪く透明なものだろう。――
月面基地での作業中に事故に遭った〈男〉。帰還したものの強い逆行性健忘症になってしまい、さまざまなことが思い出せない。
しかし、中国人看護師との会話や、放浪していたところをかくまってくれた老婆、ホームレスの老人との出会いによって徐々に記憶を取り戻していく。はたして、〈男〉にとって光とは、闇とはなんだったのか――。
近未来を舞台に、物質文明や人間の陰陽を見事に描出した傑作長編。第47回読売文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
31
読み終えたあと目まいを感じてしまった。それほど日野啓三が主人公に仮託して描写する現実世界やあるいは内面の変容は生々しい。事務的に言えば近未来を舞台にした小説となろうか。しかしエッジィなテクノロジーを派手に散りばめてこちらを魅惑するたぐいの作品ではなく(むろんそうした作品も傑作は数多とあるが)この『光』はむしろ上述した整理のごとく良質の映画のようにタイトに引き締まった人間ドラマで読ませる。なるほどSFとして読むと「ぬるさ」は否めない。だが、提示される人類の未来像や希望は実に骨太で圧倒的な読み応えを感じさせる2024/09/23
踊る猫
29
再読。たとえば記憶を失くした宇宙飛行士にとっては失くなった記憶(もしくはそんな記憶喪失をかかえつついま生きる自分)とはこのうえない「異物」だ。その「異物」が都市においておなじように「異物」感をはらむホームレスたちと交流することが偶然だとは思えないし、その宇宙飛行士を探すのが中国人の女性看護師というマイノリティ(≒「異物」)であることも著者の計算だろう。映画のようにスマートな手つきで進行するストーリーのソツのなさとその中で丹念に綴られる心理描写、そして東洋的な人生観が印象的だ。著者の到達した位置ははるか遠い2026/02/04
ロックとSF、たまに文学
2
日野啓三の小説はNWSF。2025/06/27




